「元書店員マーケター」オススメの一冊 #05
マーケターが正しく「ファクト(真の課題)」を把握するために【書評・逸見 光次郎】
2019/04/16
- 書評,
会議の中での「ファクト(事実)」
「ファクトは、こちらになります」と、提示されたグラフに違和感を覚えて、よくよく見てみると、今まで見たことのないデータやフォーマットが盛り込まれていたり、ときには縦横の目盛りが省略されて急な変化を見せていたり。根拠も説明もない「ファクト」とやらに納得できないことが多い。だから筆者は「ファクト」という言葉があまり好きではない。
特に現場の声を確認せずに本部の声だけで集めた机上のデータから導き出した「ファクト」や数人の顧客にデプスインタビューしただけの「ファクト」は、決して一つひとつのデータに嘘があるわけではないが、それだけで全体を正しく示しているかという観点では、大いに怪しくなる。
まさに今回、紹介する書籍『FACTFULNESS 10の思い込みを乗り越え、データを基に世界を正しく見る習慣』は、誰もが悪気なく10個の誤った思い込みによって「ファクト」を誤って捉えたり、伝えてしまったりしていることを理解させてくれる。
しかも、それが知識レベルの差異から生まれるのではなく、むしろ知識レベルの高い人や、高所得な仕事に就いている人ほど、誤っているというのだ。
本書の冒頭には、「今の世界を正しく理解しているか?」という13の質問が掲載されている。この質問は、時事ニュースに通じている人ほど間違いやすい。かくいう筆者も惨憺たるものだった。
例えば、「現在、低所得国に暮らす女子の何割が、初等教育を修了するでしょう?20%? 40%? 60%?」「世界で最も多くの人が住んでいるのはどこでしょう?低所得国? 中所得国? 高所得国?」「世界の人口のうち、極度の貧困にある人の割合は、過去20年でどう変わったでしょう?約2倍になった? あまり変わっていない? 半分になった?」といった質問は、いずれも悪い方を答えがちだ。
しかし実際は、良い方向に変わってきていることが多い。そして、そう答えさせる10の思い込み本能(分断、ネガティブ、直線、恐怖、過大視、パターン化、宿命、単純化、犯人捜し、焦り)は、日々の仕事にも生活にも影響を与えている。データで客観的に見ているはずが、過去の経験やメディアの情報に影響されてしまうからだ。