ビジネスにイノベーションを起こす「思考法」 #24

あいみょんプロデューサー 鈴木竜馬が語るヒットの法則「音楽業界のエッジからセンターへ」

あいみょんは、短期間で全世代から受け入れられた稀有な例


田岡  口コミは、意識的に仕掛けるのですか。

鈴木  あいみょんの場合は、そうでした。でも、それは意図があってのことです。

 彼女の曲を最初にいいと感じたのは、30代半ばのプロダクション会社の社長や40代半ばの僕。さらに、他にも彼女を評価するのは、もちろん女性もたくさん居ましたが、比較的30歳以上もしくは僕と同年代の男性ばかりだったのです。

 しかし、彼女が歌っているのは、彼女と同世代の女性の気持ち。であれば、何よりも同世代の人に届けたかったのです。

 それには、すごく時間がかかって、同世代には無理かもと途中で気持ちが折れそうになったこともあります。そして、どうしたらブレイクするだろうと次の策をうんうんと唸りながら練っていたころ、他のアーティストやアイドルなど、感度の高い人が注目し始めたんです。

 最初に話題にしてくれたのは、HKT48の指原莉乃さん。続いてDISH//の北村匠海さん、平井堅さん、RADWIMPSの野田洋次郎さん、米津玄師さんらが次々とTwitterなどで紹介してくれて「あいみょんって誰?」という空気が広がっていきました。ラジオからWebまで口コミを意識して情報発信したことがようやく実を結んだと思いましたね。

田岡  その広がり方は、面白いですね。

鈴木  そういう意味では、いきなり10代に火が付いたのではなく、実は上の世代から話題になったのです。なので、武道館でコンサートをすれば、制服の女子中学生もいれば、50代の男性もいるという状況ができました。

田岡  その幅は、すごい。

鈴木  これは、かなり稀有な成功例です。時間をかけて老若男女から愛されるようになった例はいくつもありますが、短期間で幅広い層から支持されたのは、過去には宇多田ヒカルさんとユーミン(松任谷由実)さんぐらいだと個人的には思います。

田岡  なぜそんなに短期間で、幅広い世代から受け入れられたのでしょうか。



鈴木  テクニカルな話をすると、今の日本で主流の楽曲のテンポは、本来、日本人に合うテンポよりも少し速いんです。それに対して、あいみょんの曲は、テンポをレイドバックさせて80年代や90年代に多かったニューミュージックや歌謡曲のテイストを入れて歌いやすくなっています。

田岡  たしかに、あいみょんの曲は、つい口ずさんでしまいますよね。それは意識的にチューニングされたのですか。

鈴木  本人の嗜好もそうですが、担当するサウンドディレクターによる面も多いにあります。あくまでレーベル側の責任者としてのプロデューサーである僕ができることは、どのようなデイレクターやプロモーションスタッフを彼女につけるかという差配だけです。

 そういう意味では、あいみょんの勝因は、過去にBONNIE PINKを手掛けて、シンガーソングライターをやるには僕が一番信頼している先輩ディレクターにディレクションを任せたことです。彼女を単なる「ギタ女(ギター女子)」にしないように、楽曲だけでなく、エッジを効かせたアートワークにしてくれています。僕は音楽性だけでなく、ビジュアルも絶対に大事だと考えているんです。



田岡  ビジュアルが受けなければ、売れない時代ですか。

鈴木  個人的には、そう思います。もちろん一概には言えませんが、今は好きなミュージシャンをスマートフォン上のYouTubeから見る時代。それならば、ビジュアルを気に入ってもらうに越したことはありません。

 とはいえ、アーティストは、みんな自分の意思を持っていますし、単なる着せ替え人形にしないということが大切です。いずれにせよ、何よりも彼女が書く詩が幅広い世代から受け入れられているので、その良さが最大限に伝わるようにすることが重要ですね。

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