ビジネスにイノベーションを起こす「思考法」 #25

最高益に沸く音楽業界。サブスク浸透でCDの自社流通から撤退、デジタル人材に投資【ワーナーミュージック 鈴木竜馬】

ディストリビューションからの撤退し、デジタル領域を強化


田岡 ワーナーミュージック・ジャパンとして、今後の事業展開は、どのように考えておられますか。

鈴木 会社としては、大きく2つの舵取りをしています。

 そのうちのひとつは、CDのディストリビューション(流通)機能をメジャーレーベルとして初めて手放したことです。日本では、ソニーミュージックに委託することにしました。



田岡 それは、思いきった決断ですね。

鈴木 僕のディシジョンメイクではなく、社長の経営判断でしたが、僕らは200人弱の会社で、売上が伸びたからといって闇雲に人員を増やすことはできません。しかしデジタルを強化していく上では、新たな人員が必要です。

 そこでリアルなCD・DVDなどの流通にかけていたリソースをデジタルに当てることにしたのです。そのことがヒットに直接的につながるかは、まだ明らかになっていませんが、デジタル領域のマーケターやアナリストのヘッドハンティングを始めました。

田岡 他社に先駆けた、英断だと思います。
 

中国市場でアーティストを発掘、海外展開も視野に


鈴木 もうひとつの舵取りは、日本のミュージシャンの海外展開を見越して準備を進めているということです。ワーナーミュージックグループがグローバルで展開していることを生かして、過去には、きゃりーを米国、英国、フランス、ベルギーなどに展開したこともあります。これは意外と日本の他のレーベルにはできていないことだったりします。

 今後、他社のレーベルから委託を受けて、海外展開を支援することもできるし、中国という巨大なマーケットを相手にする上での差別化にもなると思います。

田岡 中国では、どのような展開を考えていらっしゃるのですか。

鈴木 今、僕が個人的に仕掛けているのは、中国で才能のあるミュージシャンを見つけて、ブランディングするということ。中国はA&R(アーティスト&レパートリーの略でアーティストの発掘・契約・育成、楽曲の制作機能)が弱いため、そこに日本で培ってきた手法を持ち込みたいと考えています。

 最初に発掘したのは、高橋優の曲を勝手にカバーして動画サイトに投稿していた女の子です。中国で放送されていたテレビドラマ「深夜食堂3」のエンディング曲をその子が歌詞を変えて投稿したところ、なんと10億回も再生されました。しかし、これはある意味、海賊版です。



 そこで彼女に会いに行き、高橋優が所属するアミューズとの権利関係も全てクリアしてリレコーディングして、改めて昨年末から中国で配信を開始しました。現在、リレコーディング版の再生回数も2億を超えています。

 また、日本の音楽を中国のマーケットに輸出することも視野に入れています。中国の10億人という人口にサブスクリプション型でヒットを出せれば、ビジネスとして成立します。

田岡 韓国のアーティストが日本でヒットしているように、中国のアーティストを日本でマーケティングするということは、考えていないのですか。



鈴木 もちろん、それも考えています。韓国のアーティストほど売れるかはわかりませんが、国内には在日華僑の人もそれなりにいるので、確実にマーケットはあります。実際、僕らも知らないアーティストが武道館やさいたまスーパーアリーナでライブを行って2日間のチケットが即日完売したりしているんです。

 今は中国の市場を勉強しながら、現地のパートナーと関係を築いている段階です。少し前までの中国市場は、権利関係への理解がなく参入のハードルは高かったのですが、現在は中国政府の方針もあって権利を保護する方向に向かっています。今が参入の良きタイミングだと思いますので、丁寧に進めていくことで成功させていきたいですね。
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「若いという理由だけで、人を安くみない」ヒットプロデューサー鈴木竜馬の人脈術
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