マーケターキャリア協会 特別座談会
マーケターが幸せなキャリアを歩むために必要なことは何か?【鈴木健、富永朋信、中村全信、中野博文 座談会】
マーケターのキャリア構築の支援を目的とした「マーケターキャリア協会(MCA)」が3月1日、設立された。同協会の理事には、イトーヨーカ堂 執行役員の富永朋信氏、ニューバランス ジャパン DTC & マーケティングディレクターの鈴木健氏はじめ、トップマーケターやキャリアのプロフェッショナルなどが名を連ねている。長年、マーケターとしてのキャリアと向き合ってきた彼らが考える、キャリア構築における課題と解決策とは何か。同協会の発起人であり、事務局長を務める中村全信氏にも加わってもらい、詳しく話を聞いた(聞き手:ナノベーション 中野博文)。
「マーケターの価値を明らかにする」協会設立の背景
中野 社会全体として転職や副業といった動きが活発化し、キャリア構築への関心が高まる中で、マーケターキャリア協会(MCA)が設立されました。その設立の経緯から教えてもらえますか。
中村 はい。私自身、大学を卒業して広告・マーケティング専門の出版社に入社し、2011年から現在の会社でプロダクト担当、そして2016年からはマーケティング担当として仕事をしていく過程で、さまざまなマーケターの方とお会いしてきました。その中で、ずっと感じてきたことがあります。それは、同じ広告・マーケティング界で働く広告クリエイターとは違って、マーケティングという仕事の社内そして社会における位置付けやステップアップしていくことについて、明確なイメージや具体的なプランを持っているマーケターが非常に少ないということです。
その課題に対して何か行動を起こせないかと、知り合いのCMO(チーフマーケティングオフィサー)やさまざまな立場のマーケターにご相談させていただいたところ、みなさんも同じような問題意識を持っていることが分かりました。そこで、同じ志を持つ人で集まって大義を持って取り組めば、マーケター個人だけでなく、その人が所属する企業の成長にもつながり、ひいては日本経済の発展にも貢献できるのではないかと考えました。
そして今回、ご縁があって参画いただいた理事の皆さまと議論を続けること数カ月間、生まれたテーマが「マーケターの価値を明らかにする」というMCAのビジョンです。
勘違いされることもあるのでここで明確に申し上げておきたいのですが、MCAは決してマーケターの転職や独立を勧める組織ではありません。一つの会社の中でスキルやマインドセットに磨きをかけて、ステップアップしていくことも大事だと捉えています。
中村 全信 氏
グーグル
YouTube プロダクトマーケティングマネージャー 2002年に青山学院大学卒業後、宣伝会議入社。2011年Google入社以降、YouTubeの広告プロダクト担当として、TrueView動画広告、ブランド効果測定、バンパー広告などを担当。現在はマーケティング部門にて、企業のYouTube活用を支援している。
グーグル
YouTube プロダクトマーケティングマネージャー 2002年に青山学院大学卒業後、宣伝会議入社。2011年Google入社以降、YouTubeの広告プロダクト担当として、TrueView動画広告、ブランド効果測定、バンパー広告などを担当。現在はマーケティング部門にて、企業のYouTube活用を支援している。
中野 「マーケターの価値を明らかにする」というビジョンが生まれたということは、逆に言えば、現在はまだマーケターの価値が明らかにされていない、ということだと思います。MCA設立に向けて、どのような議論があったのでしょうか。
中野 博文氏
ナノベーション
代表取締役社長 CEO 1978年 長野県松本市生まれ。2002年に獨協大学卒業後、宣伝会議入社。2012年 開学した事業構想大学院大学で主任研究員。2013年 ディーエムジー・イベンツ・ジャパンへ移籍。セールス統括。2015年よりアドテック事業、アイメディア事業の責任者。2016年8月ナノベーション設立。
ナノベーション
代表取締役社長 CEO 1978年 長野県松本市生まれ。2002年に獨協大学卒業後、宣伝会議入社。2012年 開学した事業構想大学院大学で主任研究員。2013年 ディーエムジー・イベンツ・ジャパンへ移籍。セールス統括。2015年よりアドテック事業、アイメディア事業の責任者。2016年8月ナノベーション設立。
富永 ひとつは、マーケティングという仕事の専門性が企業の中で正しく評価されているとは言えない、ということを話しました。
例えば、創業者のリーダーシップでうまくいっていた会社が次の世代に経営をバトンタッチしていくとき、その会社のイズム(主義)やコモンズ(共通認識)、パッション(情熱)を引き継いでいく必要があります。そこにマーケティングの方法論が使えれば、ブランド価値や行動規範などの形で言語化して、それらを組織の中にしっかり浸透させていくことができます。
マーケティングのコア(核)には、人間という存在をよく理解して言語化し、最終的に消費者や社員の行動を変えるという機能があります。マーケティングが製品開発やコミュニケーションだけではなく、もっと広範囲に使えるということへの理解を広げていきたいのです。
富永 朋信 氏
イトーヨーカ堂
執行役員 営業本部副本部長兼販売促進室長 1992年大学卒業後、コダック社に入社。以来、日本コカ・コーラ、西友、ドミノ・ピザジャパンなどマーケティング関連職務を7社で経験。うち、西友、ドミノピザでなど3社ではCMOを拝命。2018年9月より現職。座右の銘はいろいろあるが、今のお気に入りは「過ぎたハンサム休むに似たり」。
イトーヨーカ堂
執行役員 営業本部副本部長兼販売促進室長 1992年大学卒業後、コダック社に入社。以来、日本コカ・コーラ、西友、ドミノ・ピザジャパンなどマーケティング関連職務を7社で経験。うち、西友、ドミノピザでなど3社ではCMOを拝命。2018年9月より現職。座右の銘はいろいろあるが、今のお気に入りは「過ぎたハンサム休むに似たり」。
鈴木 そこからブレイクダウンして、こういった話を誰に伝えれば、インパクトを生み出せるのかについても議論しました。マーケターに対してはもちろんですが、経営者、さらには社会全体にも伝えていく必要があります。そもそもマーケティングという名前が付いた部署のない企業もあるため、マーケティングという言葉をそのまま振りかざすのではなく、違うかたちで伝えることも重要でしょう。
まずはできることから始めようということで、メンターシッププログラム(先輩マーケターにキャリアについて相談にのってもらえる取り組み)をつくり、マーケターとしてすでに活動している人の支援なども始めていきます。
鈴木 健 氏
ニューバランス ジャパン
DTC&マーケティング ディレクター 1991年広告会社の営業としてスタートし、ナイキジャパンで7年のマーケティング経験を経て2009年にニューバランス ジャパンに入社し、現在に至る。ブランドマネジメントおよびPRや広告をはじめデジタル、イベント、店頭を含むマーケティングコミュニケーション全般を担当。2017年より直営店およびEコマース事業も統括。
ニューバランス ジャパン
DTC&マーケティング ディレクター 1991年広告会社の営業としてスタートし、ナイキジャパンで7年のマーケティング経験を経て2009年にニューバランス ジャパンに入社し、現在に至る。ブランドマネジメントおよびPRや広告をはじめデジタル、イベント、店頭を含むマーケティングコミュニケーション全般を担当。2017年より直営店およびEコマース事業も統括。
富永 ここにいる3人は、マーケティングをしていると楽しいんですよ。そして、何よりも幸せなのです。自分が仕掛けたギミックによって狙い通り、社会が動いて喜んでくれると嬉しいわけです。その感覚があるから、めんどうな調整も嬉々としてやれるのです(笑)。
ただし、世の中にいるマーケティング部の人がみんな同じように幸せかと言えば、必ずしもそうではありません。それは、本人の努力が足りないということもありますが、社会の無理解も背景にあります。だから、その解決のためのMCA設立は、「マーケティングで、幸せになろうよ」みたいな話なのです。いいでしょ、愛があるでしょ。