ビジネスにイノベーションを起こす「思考法」 #27

急成長の高級バッグ シェア&サブスクサービス「ラクサス」児玉社長が語る、ビジネスが成立する法則

前回の記事:
「若いという理由だけで、人を安くみない」ヒットプロデューサー鈴木竜馬の人脈術
 エトヴォス 取締役COO田岡敬氏が第一線で活躍するビジネスパーソンから、その人がキャリアを切り開いてきた背景やイノベーションを生み出してきた思考法を探っていく連載企画。第13回は、ラクサス・テクノロジーズ 代表取締役社長の児玉昇司氏が登場する。

 エルメスやルイ・ヴィトンなどの高級ブランドバッグが月額6800円で借り放題になるシェアリング&サブスクリプションサービス「Laxus(ラクサス)」を2015年2月にローンチ。その平均継続率は91.6%(前月有料会員の当月継続率の直近30カ月)、会員数(無料含む)は30万人にのぼる。さらに、手持ちのブランドバッグを貸し出して収入を得られる「Laxus X(ラクサスエックス)」も展開し、バッグの在庫数は2万6000種類で合計3万2000個になる。

 ラクサスのビジネスは、どのように発想されたのか。サービスのローンチまでの経緯や、その裏側にある児玉氏の思考法を探った。
 
ラクサス・テクノロジーズ 代表取締役社長 児玉昇司氏(左)、エトヴォス 取締役 COO(最高執行責任者)田岡敬氏(右)

シェアリングに着目したきっかけは、10年以上前の米国


田岡 ラクサスは、ローンチから約4年で黒字を達成するなど、急成長しています。ラクサスのようなビジネスモデルに着目したのは、シェアリングサービスという言葉も存在しない10年以上前だったとお聞きしました。
 
アプリから好きなバッグを選ぶだけで、憧れのブランドバッグを借りることができる。月額6800円でレンタル期間無期限。
児玉 はい、2006年に米国・ニューヨークへ視察旅行した際に、インターネットの掲示板で洋服やネクタイ、ドライバーセットが盛んに貸し借りされている様子を目の当たりにして、これは何かビジネスのヒントがあるなと思ったんです。

 ビジネスを成功させるためには、「高いものを安くする」「かかっていた時間を短縮する」「物事をシンプルにする」という法則があります。例えば、携帯電話が一般に普及したのも10万円かかっていた利用料金が安くなったからですし、インターネットの普及も100万円かかっていた接続料金が安くなったからです。

 当時、米国で洋服がシェアされていた背景には、店舗に買いに行くために20分ほど車で走らなければならず、移動というコストが高かったという理由もありました。また、洋服はブランドやサイズ、色などの変数が多く、在庫も多く必要でビジネスが複雑化してしまいますし、帰ってきた服をクリーニングするコストも掛かります。ドライバーセットなど工具は、米国では高額で販売されていたためシェアが盛んでしたが、日本では100円ショップで買うことができます。

 あとは、僕は自動車にも興味があって、自動運転や電気自動車のシェアリングビジネスもいいなと思っていたのですが、日本は規制が厳しくて難しい面が多くて断念しました。このように、さまざまなフィルターから検討を重ねて、最終的に高級バッグのシェアリングサービスにたどり着きました。
児玉昇司氏
ラクサス・テクノロジーズ 代表取締役社長

広島市出身。シリアルアントレプレナー。早稲田大学EMBA修了。ラクサスは自身4度目の起業。2015年毎月定額で有名ブランドバッグが無限に使い放題(貸したり借りたり)になるC2Cシェアリングプラットフォームアプリ「Laxus(ラクサス)」をローンチ。ローンチから50ヶ月連続で拡大中。会員数は30万人、流通総額は350億円を突破して推移。会員継続率は90%以上。WiLを中心に20億円以上を調達。
 

「高級バッグのシェアは当たる」と、確信していた


田岡 なるほど。では、サービスの開始前からある程度、高級バッグのシェアリングサービスが当たるという確信を持たれていた、ということでしょうか。

児玉 はい、確信を持っていました。当時、経営していた会社の社員にシャネルやセリーヌなどの高級バッグから、ノーブランドの安価なバッグまでを並べて、「これらが借りられるとしたら、借りたいと思うか」と、事前調査をしたんです。

 しかし意外にも、その場での回答は「借りてまで持たない」というものでした。「何十万円もする高級バッグはダサい。数万円で買えるケイト・スペードを持つのがオシャレだ」と言うわけです。

 バッグのシェアリングサービスは難しいのかとがっかりして、「並べたバッグを全部、持って帰っていいよ」と伝えたところ、「じゃあ私は、ルイ・ヴィトンがいい」「セリーヌがいい」と、高級バッグを手に取り始めたんです。さっきまで、ダサいと言っていたのに(笑)。

 念のため別の社員を集めて、今度は「あなたの友だちは、借りると思う?」と聞きました。すると、答えは全員「イエス」です。それで、これは絶対に大丈夫だ、と確信が持てたんです。

田岡 グループインタビューは、最初の人の回答に引っ張られたり、周りに見栄を張ってしまったりしまいがちですよね。それに消費者は、「自分の手の届かない商品の価値は、否定しがち」ですもんね。4万円のバッグしか買えないから、40万円のバッグには価値がないと、自分に思い込ませるわけですよね。
田岡敬氏
エトヴォス 取締役 COO(最高執行責任者)

リクルート、ポケモン 法務部長(Pokemon USA, Inc. SVP)、マッキンゼー、ナチュラルローソン 執行役員、IMJ 常務執行役員、JIMOS(化粧品通販会社)代表取締役社長を経て、ニトリホールディングス 上席執行役員。2019年1月21日より、エトヴォス 取締役 COO。

児玉 おっしゃる通りです。「ルイ・ヴィトンに興味はない」と言いながら、みんなルイ・ヴィトンがどのようなブランドなのかを詳しく知っています。僕はゲームにまったく興味がないので、「Nintendo Switch(ニンテンドースイッチ)」と言われても、どんな遊び方ができるのか全然わかりません。これが本当に興味のない状態です。

田岡 興味がないふりをして、自分を納得させるということですね。

児玉 そうです。ほかにも、「ブランド品は借りるのではなく、買わなければ意味がない」という意見もありました。でも、バッグの目的は買うことではなく、使うことです。その目的を達成するための手段は、多い方がいいに決まっていますよね。

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