ビジネスにイノベーションを起こす「思考法」 #30
なぜM&Aした企業を成長させられるのか。じげん平尾丈社長が語る「コクピット型マネジメント術の極意」
M&Aで取得した事業の経営手法
田岡 M&Aのあと、うまく融合させるために心がけていることはありますか。
平尾 M&Aを12件した経験から学んだのは、組織文化の強制的な融合は難しいということ。例えば、エンジニアが中心の会社もあれば、平均年齢が高い会社もあり、そこに若手中心の当社のカルチャーを持っていっても、なかなかフィットしないわけです。全社員が入れ替わるわけではないですし、永年続いてきた会社がすぐに変わるはずもありません。
そこは、さまざまな企業風土があることを認めて、カルチャーは多様でいいと考えるようになりました。
田岡 平尾さんご自身は、どこまでハンズオンで関わられるのですか。
平尾 私自身は週1回の経営会議で、事業の細かいところまで確認しています。経営会議は、事業責任者が集まる会議なので緊張感もあります。
田岡 各事業から報告を受けて、その場でアドバイスをされるわけですか。
平尾 そうです。半日程度かけて徹底的にやります。自分がまだ若く、事業の各論にも入っていけるからできることかなと思ってはいますが。
田岡 当然、レポートのフォーマットが整っていなければ、効率が悪いですよね。
平尾 はい、A3用紙8枚くらいのフォーマットを決めています。レポートを受け取って異常値があればすぐに分かります。また、前週比を継続してみているので、前週よりも差分が積みあがっていなければ、すぐに気づきます。
田岡 それぞれの事業責任者は、平尾さんと各社のやりとりをすべて聞いているのですか。
平尾 はい、お互いに意見を言い合ったりもしますし、業界は違ってもテクノロジーやストラテジーは応用が可能なので、他社の話を聞くことも参考になります。
全員が業績の追求にコミットしており、こちらが言わずとも成功したことは自発的に横展開するので、打ち手のシナジーがすごくあります。
田岡 では、Googleのロジックが変わって新たなSEO対策が必要になっても、みんなで立ち向かおうというような。
平尾 そうですね。少し数値が落ちたとしても、その理由に仮説を立てて、複数事業間の変化を比較することで、正解を導き出しています。SEO対策だけでなく、「このAIが効いたよ」「こんなUI、UXしたら、CVRを上げることできたよ」といった話まで共有しています。
田岡 それは、すごい。複数事業があったら正解が見つかりそうです。
平尾 楽しいですよ。私が「横展開しろ」と言わなくても、みんながすごいスピードで仕掛けています。私はこの”コクピット“をさらに広げていきたいと考えています。
じげん流人材育成、どんなタイプが伸びるのか
田岡 じげんが求めるマーケター像は、あるのですか。数字の追い方が一般的な企業とも違うように思います。
平尾 マーケターは外部からなかなか採れないので、難しいですよね。ネット広告は、広告代理店を介さずにプラットフォーマーと直接やりとりして内部で運用しています。マーケターは社内で教え合いながら育てています。
田岡 どういう人材が伸びるというのは、ありますか。
平尾 なんとなくですが、理系出身者が活躍しています。時頭もよくオタク気質というか、マニアックなところまで追いかけることができる人ですね。
田岡 現在は、平尾さんが各事業の詳細まで確認してマネジメントされていますが、今後、事業の数や規模がさらに大きくなっていくと、時間は有限ですし、どうされるのでしょうか。
平尾 後継者の育成は、先輩経営者の皆さんも悩まれていますが、やはり最初から考えておくべきだと思っています。
経営者に依存せずに伸ばすため、AIが代替するのか、RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)がいるのか、何社かに分けて分担するのかといった選択肢があると思っています。
あとは、役員に就任してから数年経った人材は、経営者として全方位的に考えられる訓練ができているので、彼らに任せれば再現性が出てくると思います。