ビジネスにイノベーションを起こす「思考法」 #33
「北欧、暮らしの道具店」の採用基準は、自分と世界に期待ができている人かどうか
顧客に対する「北欧、暮らしの道具店」のスタンス
田岡 採用において、会社や社会と自分の関わりを客観的に見られる人がいいという話がありましたが、青木さん自身のテーマも「自分と他者、または社会との関係性」といったところにあるのでしょうか。
青木 どうでしょうか。おそらく「自分がどうされたいか」ということが根底にあるのだと思います。聖書にも「人からしてほしいことをしなさい」という言葉がありますが、自分に期待していない人は、相手から通常提供してもらうべき以上の価値を期待している可能性があって、それは怖いことだと思うんですよね。
田岡 テイクのためのギブになってしまっているということですか。
青木 そうです。だから私自身はお客さんとしてお店に行ったときも、お店側が過剰に奉仕してくることを望みません。
店員さんに認識してもらって「いつもありがとうございます」と言われたい人はもちろんいますし、どちらが正しいかということはありませんが、私はフェアな距離感の方が好きですね。
ただ、押し付けは求めていないけれど、セレンディピティは求めているんです。いいものはうっとうしくない形で紹介されたいんです。だから、誰からの紹介かというのは非常に重視します。例えば、田岡さんからの紹介のお店だったらそれだけで行きたいと思いますが、よく知らない人から勧められてもなかなか行きません。
私たちのお客さまも同じような気持ちだと思うので、我々のスタイルは主観的に商売することを重視していますが、押し付ける気持ちはありません。例えば、私がこんな和食のお店に行きたいんだよね、とFacebookに書いたら、誰かが気に入ったお店を紹介してくれる、というぐらいの関係性だと思っています。
田岡 採用としても、そういう目線を持った人に加わってほしいと思っている。
青木 そうですね。僕らが何をありだと思っているかというよりも、お客さまにとってありかどうかが大事です。お客さまの「OBゾーン」に踏み込まないということですね。
田岡 それは明文化されているのですか。
青木 これは明文化できないですね。徒弟制度のように、一緒に働きながらフィードバックを繰り返していく中で理解してもらうしかないと思っています。
よくテレビアニメの「サザエさん」を例に説明するんですよ。「サザエさん」は、日曜日の夕方に明日からの仕事を憂鬱に思っている人の心を癒す効果があるとします。
しかし、クリエイターがリアリティを追求して、タイ子さんの不倫問題を扱ったとしたら、それは「サザエさん」のファンを裏切ることになります。
でも、タイ子さんが同窓会に行って昔好きだった人に会い、ほんのり恋心を思い出すんだけれど、家に帰ってノリスケさんと話して、改めてその良さに気づくというストーリーであれば、ギリギリセーフだと思うんです。
私は、そのブランドの約束の範囲内をめいっぱいに使って、何を表現するかがクリエイティビティだと考えています。