「元書店員マーケター」オススメの一冊 #01

【書評】マーケターは元・セブン&アイCIO 鈴木氏の苦悩に共感し、デジタルシフトを推進すべし

 「カメラのキタムラ」で執行役員 オムニチャネル 推進担当として活躍し、現在は様々な企業のオムニチャネルコンサルタントを務める逸見光次郎氏。実は、キャリアのスタートは三省堂書店の書店員だった。

 そんな逸見氏は、現在も足しげく書店に通い、さまざまなビジネス書籍に目を通している。本連載では、マーケティング業務に携わるビジネスパーソンに向けて、逸見氏が毎月注目の1冊を紹介していく。
 

自らの戦略の失敗点を踏まえたデジタルシフト戦略


『アマゾンエフェクト~「究極の顧客戦略」に日本企業はどう立ち向かうか』鈴木康弘・著(プレジデント社)詳細はこちら(Amazon)

 連載第1回で紹介するのは、私の師匠である鈴木康弘さん初の著書『アマゾンエフェクト~「究極の顧客戦略」に日本企業はどう立ち向かうか』である。2016年12月にセブン&アイ・ホールディングスCIO(最高情報責任者)を退任され、ご自身が提唱されるデジタルシフトを支援するデジタルシフトウェーブ社を設立された。私にオムニチャネルとビジネスの基本を叩き込んでくれた方だ。

 当初のタイトルは「デジタルトランスファーの教科書」だったそうだ。おそらく編集者がAmazonとの対立軸をより明確化することで、危機感をあおったのだろう。

 書籍の中身は、昔から鈴木さんが語っている内容そのものだ。鈴木さんは1999年に設立されたイーショッピングブックス時代から、米国の未来学者、アルビン・トフラー著書『第三の波』を取り上げ、農業革命、産業革命に続いて、いよいよ情報革命の時代が到来し、インターネットを軸にしたビジネスや社会変革が始まると言っていた。

 まず『アマゾンエフェクト』を読むときに念頭に置くべきは、鈴木さんの経歴の面白さ、そこから来る視点のユニークさ、そして自らの戦略の失敗点を踏まえた上で唱えるデジタルシフトであることだ。

 残念ながら多くの人が、鈴木敏文(元)会長の次男ということから、親の七光りという目で、鈴木さんを見ている。私も鈴木さんのことを聖人君子だとまでは言うつもりはないが、あの元会長の教育を受けたという生い立ち、大学卒業後に富士通で積んだ国内外での流通POSでのSE経験、その後のソフトバンクで孫正義氏に日々詰められながら起業した合弁ベンチャーでの経験。その上での、セブン&アイ・ホールディングスでのCIO。これだけのキャリアを積んできた人が七光りだけのはずがない。

 それらの経験から、鈴木さんの根底にあるのは「常に顧客(相手)の立場に立って考える」ということだ。相手が顧客であれ、取引先であれ、どんな立場でも、どのような考え方なのかをきちんと理解し、仮説を立てている。

 一度セブン時代に「顧客の立場に立って」というべきところを、私が「顧客の“ため”に」と言い間違えて、鈴木さんに「お前は何様だ!」とひどく怒られたことがある。実は当時、なぜそんなことで怒られているのかわからなかったが、今ならよくわかる。顧客に何かしてやろうという上から目線ではなく、顧客と同じ立場や視点で自社の商品・サービスを見直すことが大事だからだ。

 また、鈴木さんには、鈴木(元)会長だけでなく、ソフトバンク 孫正義会長、ファーストリテイリング 柳井正会長、SBIホールディングス 北尾吉孝社長という、名だたる経営者との交流の中で培われた視点もある。

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