ビジネスにイノベーションを起こす「思考法」 #41

ストックオプションも提供。「外注・プロ化」が進むブランドマーケティングの現在

マーケティングのアウトソースは、本来インハウスでやるべきこと


田岡 マーケティング領域について、インハウスで取り組むべきこと、アウトソースすべきことは、どのように切り分けられると考えていますか。

山口 理想論で言えば、頭を使うストラテジーは、インハウスの方が良いと考えています。なので、私たちが仕事として請け負う領域は、本来は社内で行うべきことなんです。そういう意味では、同じ会社がずっと私たちを使い続けることは健全ではないため、案件の中でも戦略の情報収集視点と判断基準を見える化し、スキル移転を強く意識しています。

一緒に仕事をする中でクライアント側も徐々に使い分けるようになり、重要度と難易度が高い案件をインサイトフォースに発注して、そうではないものは私たちの方法を踏襲しながら自分たちで取り組むようになっています。

田岡 あえてアウトソースしやすいオペレーションを挙げるとしたら、どのような業務ですか。



山口 
それは、ナレッジがコモディティ化したオペレーティブな作業で、一部の広告運用などはそれに該当します。ただし、自らオペレーションを経験するからこそ、ノウハウが理解できて良いディレクションができる領域も多いのです。

PR会社や広告会社への外注はその典型ですが、最初はアウトソーシングしつつも、外注窓口になる社員がしっかりとノウハウを吸収し、数年後は内部に巻き取る覚悟で外注すべきです。全部“おんぶにだっこ”な意識の会社は、いつまでも社内にノウハウがたまりません。しかし、不安で楽をしたい社員と、まるっと全部ブラックボックスで委託されたほうが長く大きく稼げるエージェンシーサイドの共犯関係は発生しがちです。でも、これこそ経営者がマーケティング担当者に不信感を抱く要因ですし、社内にノウハウが蓄積されず、マーケティング能力は育ちません。

ただ、内製化で留意すべきは、クリエイティブやデザインの領域でしょうか。ひとつのブランドの事業で、ずっと同じトーン&マナーのクリエイティブを継続するなら内製化も良いのですが、マルチブランドでターゲットもトーン&マナーも異なる事業を抱えていると内製ゆえの制約も増えます。

というのも、クリエイティブの最大の成功要因は、クリエイターとブランド固有の表現要件のマッチングです。クリエイターにも得意不得意の範疇があり、それが外れるとパフォーマンスが低下します。昔に比べて高い費用をかけなくても、良質なクリエイターがたくさん市場にいて、その都度発注できるため、内部に抱え込むメリットは減っています。

田岡 
クライアント側から見て、アウトソース先を選ぶときの基準や気を付けた方が良いポイントはありますか。

山口 ひとつは、当社も含めてマーケティングのすべてのアプローチや施策領域に詳しい専門家はいないということです。実際にアウトソース失敗の最大要因は、そもそも委託先の選定ミスが多いと感じます。アウトソース先の考え方と専門性を評価し、自社とのマッチングを確認することは必要だと思います。

基本的に多くの会社が営業段階で「全てワンストップでできます」と風呂敷を広げがちですが(笑)、あとで厳しい事態になれば、クライアント側のリスクです。そこで、はっきりと「うちはこれができるけど、これはできない」と言う相手であれば、自己理解が高く、要件にあった成果を出せるクライアントと仕事をしようという姿勢が分かり、誠実だと思います。

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