ビジネスにイノベーションを起こす「思考法」 #42

ブランドコンサルの業務を徹底解剖。コンサルタントが持つべき強みとは何か

対外的な競争力を上げる目的の案件に特化

 
取材は山口氏が社外取締役を務めるクラフトチョコレートメーカー「Minimal」富ヶ谷本店で行なった。

田岡 優秀なコンサルタントでも全てのクライアントを成功に導くことはできません。そこで、案件を受ける際には、サポートすることで成功できそうなものを選ばれているのではと思います。案件を受ける基準は、あるのでしょうか。

山口 
当社は、社内の活性化や企業合併に伴うような組織統合を目的にしたインナーブランディングが主軸のものはお引き受けしない方針です。アウターのマーケットにおける競争力を強化する案件に特化しているのが特徴です。ただ、その中でも成功を担保するために見極める2つの視点があります。

ひとつは、競争力を上げるという目的を本当にプライオリティにおいてやり切る企業体質があるかです。特に商品ブランドポートフォリオの見直しが伴うと、どこかのブランド事業に投資を傾斜配分することと引き換えに、何かのブランドへの投資は減らします。これは社内政治として相当揉めます。

でも、豊富なリソースを持ちながら市場競争力で弱っている大企業の大半は、社内政治のために投資の傾斜配分が実行できていません。最終的に売上と収益の成果が出なければ、その評価と評判は我われにも降りかかってきます。

大変に生意気で恐縮ですが、私たちも真剣勝負でやる以上は、クライアントの経営層の方も社内政治を突破して意思決定いただける覚悟があるかをシビアに判断せざるを得ません。

もうひとつは、あまりにも事業内容や訴求価値が総合化しすぎた企業ブランド戦略の案件は避けています。例えば、鉄道会社グループの企業ブランドであれば、電車、ホテル、スーパー、不動産などの多角化した事業を保有し、これらの競争軸はすべて異なります。電車とスーパーではどう考えても競争軸は違いますよね。

そこを無理やり統合すると「お客さまへのおもてなし」のような、何か言っているようで何も言っていないスローガンがブランド価値概念に陥ります。「社内で角が立たずに体裁はよいけど、どの事業の競争力にも貢献しないし、現場のマーケティング施策の判断軸にならない」そんな結果になりがちです。

もちろん、企業統合がきっかけのCIやブランドリニューアルは、市場競争力向上ではなく、社内組織の統合からアイデンティティ統一までを目的にした場合もあるため、いまお話ししたような市場競争力につながらないCIにも存在意義はあります。ただ、そのような案件は当社ではない方がうまくできると考えていて、適していないという判断をしています。

田岡 では、シングル事業の企業に絞っているのですか。

山口 いえ、シングル事業ではなく、複数の事業を持っていても、それぞれ事業や商品ごとにブランドが切り分けられて独立していれば問題ありません。化粧品会社はその典型ですが、多くの独立した商品ブランドを抱えており、それぞれターゲット顧客、ブランド価値、価格帯が異なっていても問題はおきません。

実際に、化粧品、自動車、飲料といった商品ブランド数の多い企業は、何かの商品ブランド事業が成功すれば、他のブランドの立て直しという話がでてくるため、当社にとっては案件の数が多い重要クライアントになります。



田岡 あまりにも商品力が足りないから、サポートできないということもあるのでしょうか。

山口 
たしかに、商品やサービスそのものにバリューがなければ、どう戦略をいじっても厳しいことはあります。ただ、現状ですでに顧客がいて売上があるならば、何もバリューがないということはありません。その商品・サービスから得られるベネフィットを洗い出し、伝える相手のターゲットや、ベネフィットとエビデンスをより伝わりやすくすることで、何かしらの改善ができるケースもあります。それでも厳しければ、時間はかかりますが、そもそもの商品企画・開発から支援するというケースもあります。

田岡 
では、商品開発の提案をすることもあるのですか。

山口 
あります。原材料シーズも定まっていない段階ならば、商品企画タイミングで研究所の方に入っていただき、同じシーズから提供できる多様な顧客ベネフィットを洗い出し、商品コンセプトのアイデアを増やしていきます。

また、社内の技術にこだわっているがゆえに競争力が劣っている場合、その技術では競争に勝てないという合意形成を行った上で、製造や技術の一部を外部リソースから調達するという意思決定のサポートを期待される案件もありますね。

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