ビジネスにイノベーションを起こす「思考法」 #42
ブランドコンサルの業務を徹底解剖。コンサルタントが持つべき強みとは何か
多様な価値観に対する深い理解が強み
田岡 山口さん自身のブランドコンサルタントとしての強みは、どこにあるとお考えですか。そして、それは、どのような経験から得られたのでしょうか。
山口 強みはいくつかありますが、ひとつは20代の頃、ソニー子会社のコンサルティング会社に勤めていたときに得た経験です。ソニーグループ内の企業であれば、グループ内の身内意識で通常のコンサルティング会社では入り込めないディテールにまで奥深く関わることができました。
ソニーグループは、当時から売上7兆円の大企業。そのなかで発注側の論理や大企業の経営意思決定ならではの合意形成など、リアルに触れられた経験が大きく、正論一本槍ではなく、社内政治を理解して立ちまわりながら合意形成を図るスキルとメンタリティが鍛えられました。インサイトフォースが大企業と直接取引できているのは、その経験があったからです。
田岡 大企業の論理は、独特ですからね。
山口 はい。もうひとつの強みは、人の価値観の多様性に対する理解が深いことです。
これは、私が小さい頃から様々なコミュニティに足を突っ込み、地方在住者など属性の違う人と交流をしてきたからです。たまたま小学校が慶應の幼稚舎にいたことで伝統富裕層の価値観にも触れてきましたが、一方で幼少期は父親から仕込まれた趣味でモトクロスをやっていたので、東京ではない郊外のサーキットで出会う方々は、同級生とは価値観が異なる部分もあり、その経験は価値観を相対化して捉えた原点だと思います。
また、20代のときに勤めていたコンサルティング会社では、毎年6000サンプルで日本人の価値観・ライフスタイルの定量調査を行い、日本人の価値観データに触れる環境にいました。そうすると、例えば東京のマーケティング界隈に勤めている人や年収1千万を超える人がどれほどごく一部なのかが数字で分かります。
私自身は、東京生まれ東京育ちですが、異なる価値観の人とデータにたくさん触れたことで、消費者が持つ価値観を中立的な視点で俯瞰し、相対化できるのが強みだと思います。
量的なデータを見ていたから言えることですが、東京のマーケターが「2%強存在するはずのイノベーター」をターゲットとして描写しているライフスタイル像の大半は、「0.2%位しか存在しないレベルの人の生活像」になっています。人は自分の身近なコミュニティを基準に考えがちということだと思います。
田岡 確かにマーケターの中には自分自身を日本市場の代表サンプルのように扱って失敗している人もいますもんね。多種多様なユーザーに成り切れるというのは多様なクライアントに対応するブランドコンサルタントにとって重要ですね。
田岡敬氏 対談を終えて
山口さんがお話された「クライアントの中に課題解決の答えを持っている人はいる」「その断片化している答えを立体的に組み立てられなかったり、組織のコンセサスに昇華できないだけ」「コンサルタントに想像もしなかったものすごい飛び道具の施策を期待するのは間違い」「マーケティングは、画期的な飛び道具がなくても成果を出せる」というのは、マーケティング以外の経営課題にも言えることだと思います。
社内で「答え」を持っている人は、マーケティング担当であれば、きちんとお客さまと向き合っている人でしょうし、人事担当であれば、きちんと従業員と向き合っている人でしょう。顧客や従業員から遠い人が独断で意思決定するのではなく、意思決定者が顧客や従業員と向き合っている人の意見をきちんと聞くことが重要でしょう。ただ、そもそも経営幹部自身が顧客や従業員のことを直接理解するべき時代だと思います。スタートアップでは、経営陣が顧客インタビューに参加するのが当たり前であり、どんな組織体であれ見習うべき点かと思います。
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