ビジネスにイノベーションを起こす「思考法」 #番外編03

「CEOが総理大臣であれば、CMOは幕僚長」キャリアの延長線上の社長に必ずしも賛成できない理由

音部さんが影響を受けたマーケター


田岡 
音部さんが影響を受けたマーケターは、どなたですか。

音部 
P&Gに勤めていた当時は、よく分からなかったのですが、結果的にはジム・ステンゲル(元P&G グローバルCMO)だと思います。
 
2019年5月開催の「マーケティングアジェンダ」では、ジム・ステンゲル氏が登壇。音部氏とのセッションも行った。

田岡 
それは、いつごろ感じられたのですか。

音部 
ユニリーバに勤めていた頃から、何となくですね。その影響をしみじみと感じたのは、資生堂に行ってからです。

田岡 
それはやはり、彼が提唱する「ブランドパーパス」からの影響ですか。

音部 
それもありますが、彼は当時からブランドパーパスとばかり言っていたわけではないんです。私が見ていたのは、「共通言語」としてのオペレーションの「標準化」です。彼は組織が自律的に知識を吸収して、成長できる仕組みづくりをしていたんです。言語を共有していれば、お互いが初対面でも意思疎通できるし、協働しやすい。

田岡 
戦線を拡大できるということですね。

音部 
そうです。今はあちこちでP&Gの卒業生が活躍していますが、これは日本だけに限った話ではなく、世界中でそうなんです。その礎をつくったのがジム・ステンゲルでした。

田岡 
なるほど。

音部 
あとは、直接の薫陶を受けてはないですが、書籍『マーケティング22の法則』を執筆したアル・ライズやジャック・トラウトの影響は非常に大きいと思っています。これはマーケティングのテクニックの話だと捉えられがちですが、私が学んだのは「人間を見る」ということ。私は精読するタイプですが、精読は内容を覚えやすいので、いい本に当たったときに得られるものが大きいと思っています。

それから、神戸大学の博士課程で指導教官だった石井淳蔵先生からも影響を受けました。驚くのはマーケティングの実務をあまり経験されていないはずなのに、実務家の痛点が分かっていらっしゃること。ご本人は「いろいろな人と話しているからだよ」と軽くおっしゃいますが、話を聞くだけならば多くの方々もされていますよね。洗練されたアカデミアに固有のセンスと言ってしまえば、身も蓋もない話ですが、おそらく人間洞察や仕組みの理解に対して、気をつけていらっしゃるのだろうと思うんです。

田岡 
音部さんがそうおっしゃるのは、すごいですね。

音部 
はい。それが、アカデミアのひとつの在りようだと感じています。私のキャリアを振り返っても、すばらしいタイミングですばらしい方にお会いできたと思っています。そうした、いい影響を私も多くの人に提供できれば素敵ですね。

田岡敬氏 対談を終えて

音部さんは、どんな質問にも即答で明確な答えを返されます。インタビュー中に「成長は知識に因る」というお話がありましたが、暗黙知を体系化された形式知にすることを常に行なっているからこそ明確な即答ができるんだな、と思いました。知識によって個人や組織の成功の再現率を上げていくことが、中長期的で継続的な成功に繋がるんだと改めて気付かされました。
 
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