ビジネスにイノベーションを起こす「思考法」 #46

発売1年で異例の460万個「オルビスユー」。ヒット連発 小林琢磨社長が描く戦略

前回の記事:
「そういう奴に、なってほしくない」 DMM.com亀山会長から村中悠介COOへの一言
 エトヴォス 取締役COOの田岡敬氏が第一線で活躍するビジネスパーソンから、その人がキャリアを切り開いてきた背景やイノベーションを生み出してきた思考法を探る連載企画。第20回はオルビス 代表取締役社長の小林琢磨氏が登場します。

小林氏はポーラ入社後、社内ベンチャーの敏感肌専門ブランド「DECENCIA(ディセンシア)」の社長を8年間務め、同社売上をゼロから50億円近くまで伸ばしました。その後、2018年1月に40歳の若さで年商が500億円を超えるオルビスの社長に抜擢。新たな経営ビジョンを掲げて「ORBIS U(オルビス ユー)」のリニューアルや飲むスキンケア「ORBIS DEFENCERA(ディフェンセラ)」など、次々とヒット商品を生み出しています。そんな小林氏の思考法とマーケティング戦略に迫りました。
 

想像だにしなかったオルビス社長への抜擢


田岡 小林さんはポーラに入社してグループ企業の「DECENCIA(ディセンシア)」で社長を経験された後、2018年1月にオルビスの社長に抜擢されています。それは、ディセンシアでの実績が買われてのことでしょうか。

小林 どういう議論があったのか本当のところは分かりませんが、私みたいなタイプは創業90年を超える老舗企業では珍しかったんだと思います。

ポーラに入社したときも王道ではないBtoB事業を希望。20人ほどの部署の中で法人営業から販売企画、マーケティング、商品企画、物流、在庫管理までを経験しました。

そんな中で研究所から社内ベンチャーのタネとなる技術が生まれ、ディセンシアが立ち上がりましたが、研究員だけでは事業運営はできないので私がマーケティング側で手を挙げて飛び込んだんです。その当時は、私みたいに自ら手を挙げるタイプの社員は少なかったので、経営陣も面白がってくれたのかもしれません。
小林 琢磨
オルビス 代表取締役社長
2002年ポーラへ入社、2009年にグループの社内ベンチャーで起ち上げた敏感肌専門ブランドのDECENCIA取締役、2010年同社代表取締役社長へ就任。急成長に導き、同ブランドを大きく飛躍させた後、2017年オルビスのマーケティング担当取締役、2018年に代表取締役社長に就任。リブランディング、構造改革を実行している。ポーラ・オルビスホールディングス上席執行役員を兼務。早稲田大学大学院MBA

田岡 オルビスの社長になることは、想像されていたんですか。

小林 
いいえ、まったく予想していませんでした。というのもオルビス云々ではなく、そもそも私はディセンシアに人生を掛けて8年間で売上を50億近くまで成長させてきたので、正直なところ今思えばオーナー社長ばりに経営をしてきたので、自分がサラリーマン社長であることをすっかり忘れていたんです(笑)。

なので、持株会社(ポーラ・オルビスHD)に呼ばれて「オルビスを任せる」と言われたときは、ディセンシアから離れることに天地がひっくり返ったかと思うぐらいに驚きました。
 

社員に問う「オルビスの事業ドメインは何か」


田岡 当時のオルビスは、売上が伸びていなかったんでしょうか。

小林 
そうですね、実質15年くらい伸びていませんでした。数字上では伸びている時期もあるのですが、それはポイント制度を切り変えたタイミング。売り値から値引きをしていた分がポイントになり、値引き費用が販売管理費に入ったんです。実際には苦戦している状態が続いていました。

田岡 
小林さんからご覧になって、当時のオルビスには、どのような課題があると思われましたか。
田岡 敬
エトヴォス 取締役 COO
リクルート、ポケモン 法務部長(Pokemon USA, Inc. SVP)、マッキンゼー、ナチュラルローソン 執行役員、IMJ 常務執行役員、JIMOS(化粧品通販会社)代表取締役社長を経て、ニトリホールディングス 上席執行役員。2019年1月21日より、エトヴォス 取締役 COO。

小林 
一番の課題は「自分たちは何屋か」という事業ドメインが、いつの間にか不明瞭になっていたことでした。オルビスは化粧品の通販カタログで伸びた会社。そうした中で「化粧品を販売する手段としての通販なのか」、それとも「事業ドメインそのものが通販なのか」が曖昧になっていたんです。なので、創業時のスピリットやフィロソフィーに立ち返ることから始めました。

田岡 
具体的には、どのようなことをされたのですか。

小林 
ベタなのですが、最初はミッションやビジョン、ブランドコンセプトをすべて描き直しました。言ってしまえば、それまでは戦略がなかったんですよね。会報誌の販促カレンダーや感謝ポイントの贈呈月など、決められた年間の取り組みだけを行っていてブランドとしての戦略が見えなくなっていたんです。

田岡 
前年踏襲主義と言ったところでしょうか。

小林 
そうです。だから社員と面談して「オルビスは何屋さんですか」と聞くと、回答がバラバラなんです。中でも多かった回答は「通販会社」でした。たしかに商材もスキンケアのほかダイエット食品、ホームウエアまであって幅広いんですよね。

例えば、新規獲得においても、ブランドとしての戦略ではなく「CPO(Cost Per Oder=一注文獲得にかかるコスト)が一番低かったのが、ダイエット食品だったのでそれをメインに」という考え方です。自分たちの事業ドメインが明確ではないため、結果的にCPOが安い商材順の構成比になっている状況でした。

田岡 
社員の意識を変えることが必要だったわけですね。

小林 
はい、社員だけではありません。驚いたのが、外部のセミナーで登壇したときに「オルビスの社長です」と言うと、20代ぐらいの女性が「うるにゃんですね!」と真っ先にLINEスタンプのキャラクターを挙げるんです。LINEの友だち登録数が約3300万であることは大きな資産ではあるのですが、化粧品よりも先にうるにゃんが出てしまう状況に「かなりまずいな」と思いました。

マーケターに役立つ最新情報をお知らせ

メールメールマガジン登録