ビジネスにイノベーションを起こす「思考法」 #48
ファッションのサブスクで大注目。エアークローゼット天沼社長が語る「顧客価値の根幹」
スタイリストの働き方の多様化に寄与
田岡 ビジネスモデルを伺うと、スタイリストの数が事業拡大上のボトルネックになると思うのですが、どのように集めているのですか。
天沼 最初は苦労しましたが、現在はスタイリスト業界がわりと狭いため、所属スタイリストからの紹介で広がっています。また最近は、Webサイトに求人を出すと、それなりに連絡をもらえるようになりました。
ただ、どんなバックグラウンドを持つ方がエアークローゼットのスタイリストに適しているのか、正直まだ見えていないんです。スタイリストと一口に言っても、テレビや雑誌などに出演するモデル向けの人もいれば、ファッション系Eコマースサイトのコーディネートをしている人もいます。業務範囲という視点から考えれば、百貨店やアパレルショップの販売員もスタイリストですよね。
サービスの開始当初はスタイリストとして生計を立てている人に限定していたのですが、現在は少しずつ範囲を広げています。というのも、私たちの教育プログラムがかなり充実してきたんです。
田岡 所属するスタイリスト向けの教育プログラムですか。
天沼 はい、独自のパーソナルスタイリング教育システムです。その導入によって、必要なスタイリングの知識を身に付けてもらえるようになったと思っています。
田岡 通常、スタイリストをやろうと思えば、先に洋服を買うといった投資が必要ですが、御社であれば、投資は必要なくなりますよね。スタイリストになりやすい環境を整えているという効果もありそうです。
天沼 おっしゃる通りです。従来のスタイリストは師匠について何年か下積みをしてから独立するという流れが主流でした。そこには、ファッションブランドとのコネクションも必要で、そうしたコミュニケーションを合わないと感じる人もいたと思います。
また、スタイリストはお洋服を持って移動する必要があり、力仕事の面もあって、女性の場合は妊娠で休んで、そのまま仕事を辞めるというケースも多いんです。
一方でエアークローゼットであれば、金銭的な費用は掛かりませんし、時間や場所を選ばないため、リモートで空き時間に仕事を続けることができます。当社と出会って子どもを連れて田舎に移住したというスタイリストもいて、生き方の選択肢が広げられている点もおもしろいと感じています。
田岡 それは、いいですね。
天沼 さらに、他のメリットもあります。エアークローゼットではスタイリストが担当するお客さまの数が多く、しかもフィードバックを必ずいただけるので、スタイリストとしての経験値が溜まります。オンライン上のフィードバックなので、販売員とは違って対面では聞くことができない声も聞くことができ、スキルが上がりやすいと思っています。
田岡 対面だと、拾えない声がもらえるわけですね。
天沼 はい。私も店舗で試着をして似合わないなと思っても、販売員さんには「他も回って考えてみます」と言うことがあります。でも、それだと店舗側が得られる情報はゼロです。それがオンラインであれば、違うと思った理由や気に入ったポイントを言葉や数字にしてもらえます。
スタイリストはレーティングで最も評価が低い「1」が付いたら、その理由をしっかり考えるようになるんです。ラーニングの回数がすごく多いのは、強みだと思います。
田岡 エアークローゼットが成長すれば、スタイリスト業界がさらに産業として成立するのかもしれませんね。
天沼 はい、そうなるといいなと思っています。そのためには、これからスタイリストを目指す人たちの知見やノウハウの中に「パーソナルスタイリング」が入ることが大事だと思っているんです。
その推進に向けて、私が発起人となって2018年に一般社団法人日本パーソナルスタイリング振興協会(JaPPA)を立ち上げました。TOEICのような測定試験「TOPSS」もつくり、パーソナルスタイリングの知識やノウハウを身につけてもらう機会を広げていこうと思っています。
※後編 社長もニックネームで呼ばれる。エアークローゼット 天沼聰氏が語る「理想のフラットな組織」に続く
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