ビジネスにイノベーションを起こす「思考法」 #49
社長もニックネームで呼ばれる。エアークローゼット 天沼聰氏が語る「理想のフラットな組織」
エアークローゼットのビジネスモデルはどう生まれたのか
田岡 起業される際は、いくつかのアイデアが出ていたなかでエアークローゼットのビジネスモデルを選んだんですよね。さらに、起業した仲間も特にアパレルに詳しいわけでもなかった。
天沼 はい、インターネットやテクノロジーが大好きな3人でつくった会社なので、アパレルの仕事を経験したことがある者はひとりもいませんでした。
事業を発想する方法は、いくつかありますよね。ひとつはその業界が大好きで、そこでやると決めて動き出すパターン。もうひとつは業界を決めていなかったけど、ひとつのアイデアが思い浮かんでスタートするパターン。または、世の中の課題を中心に置いてその解決を目指すパターン。
私たちは、どちらかと言えば課題解決型で、起業時にこだわったのは「ライフスタイルを豊かにしたい」ということ。一時的に流行するサービスをつくるのではなく、しっかりと生活に定着するサービスをつくりたいという思いがありました。
田岡 テクノロジー好きということで、天沼さんご自身でもプログラムが書けるのですか。
天沼 はい、10数言語は書けますよ。
田岡 えええ、そうなんですか、すごいですね。
天沼 もうさすがに筆は取らないですが(笑)。最終的に『airCloset』のビジネスモデルに決めたのは、シェアリングエコノミーという概念がすごく好きだったことと、会社のビジョンにも掲げている“ワクワク”を一番つくれそうだなと思ったからです。
ITコンサルティング会社出身の3人なので、最初はスマートに起業して在庫を持たずに非連続的成長するようなスタートアップと言っていたのですが、実際につくったものは真逆でした(笑)。
ただ、「ライフスタイルを豊かにできるサービスをつくろう」という思いから少しもブレることなく事業を続けられているので、本当にエアークローゼットのビジネスを選んで良かったと感じています。
田岡 ファッションに、それだけのパワーがあるということですよね。
天沼 ファッションというよりも、新しいファッションに出会ったときのワクワクを信じているんですよね。
田岡 ITコンサルにいた経験をお持ちなのに、洋服というリアルなモノが動いて人への泥臭いマネジメントも発生する現在のビジネスモデルにためらいはなかったですか。
天沼 まったく、ありませんでした。ただ、いまの自分が「創業当時の自分」にオペレーションやコミュニケーションに必要なタフさを教えてあげることができたら、もう少し楽だったかもしれないですね(笑)。
初めはファッション業界の知り合いもゼロでしたが、少しずつ紹介してもらって事業の構想を説明していきました。ほぼすべての人から「うまくいくわけがない」と言われましたが、その意見を全て受け止めて、それらに対する自分たちなりの解が持てれば、成功の確度が高まると考えていました。
田岡 最初に想定問答集を用意しているようなものですもんね。
天沼 そうですね。本当に一つひとつ形づくってきたというのがすべてですし、今後もそれを成せる組織であり続けたいと思っています。
特にサブスクリプションサービスの場合、どれだけ改善の速度を高めて、そのサイクルをやり切れるかが大切な要素だと考えているんです。
田岡 『airCloset』の場合、洋服というフィジカルなモノが動くので、商品の管理から物流まで大変だと思いますが、何が一番たいへんでしたか。
天沼 何かこれは、というのはないですね。ひとつずつ課題をクリアしているというのが正直なところです。モノが動いていく仕組みや業務フロー、システムも最初はゼロですし、ディスカッションしながらつくっていきました。
田岡 貸し出す洋服もSKUは同じでも、個品管理が必要ですよね。
天沼 はい。管理する仕組みだけでなく、クリーニングの方法も自分たちでつくってきました。パートナー企業と洗い方や洗剤を開発して、我われ専用で動いてもらっています。例えば、汚れや匂いを落としながら、お洋服のダメージをどこまで軽減するのかは、洗い方によってかなり変わってくるんです。
「問い合わせ」にはすべて目を通し、UXを改善
田岡 現在、天沼さんは組織の中でどのような役割を担っているのですか。
天沼 かなり実務に入っていて、週に一度は全プロジェクトの報告共有会を実施しています。また、お客さまの体験を中心に経営が回ると考えているため、UXに関連する変更は必ず自分でチェックするようにしています。今でもお客さまからの問い合わせメールにはすべて目を通しています。毎日、数百件は届くので数的に重くなってきてはいるのですが…。
田岡 すごいですね。読むのには時間もかかりますよね。
天沼 はい。ただ、お客さまからの問い合わせを聞くことは、一つひとつの声を大切にしたいという思いもありますが、お客さまの声の大きさを認識するという意味もあるんです。
例えば、台風の影響で配送が遅れたとき、それに対してどれくらいのお客さまの声が上がるのかという数を把握することで、ビジネスへの影響度が分かるんです。そのようにお客さまの勘所を知るという観点でも、すごく大事だと思っているんです。
田岡 インパクトを概算できるのは、重要ですよね。
天沼 何年も見ていると、かなり分かるようになってきます。この質問がこのくらいの数くるということから、どのぐらいのお客さまが困っているのかがわかります。社内の文化としてもUXを強化したいと思っているため、お客さまがどう感じているかは常に意識しています。