ビジネスにイノベーションを起こす「思考法」 #49
社長もニックネームで呼ばれる。エアークローゼット 天沼聰氏が語る「理想のフラットな組織」
アイテム拡充やメンズやシニア領域、海外展開も視野に
田岡 今後の展開については、どのように考えておられるのですか。
天沼 生活の中でワクワクするお洋服との出会いをたくさんつくりたいという思いが強いので、レンタルはあくまでもひとつの手段だと思っています。第一の目的は、お洋服を買いに行くのが面倒で選ぶのも辛いという時間をワクワクする時間に変えること。そのため、探す時間を圧倒的に短縮しながら、その品質も上げたいと考えています。
それによって、自分の着こなしの幅が広がれば、面倒だった買い物体験も絶対にワクワクするものになると信じているんです。
田岡 自信を持って着られる服がなければ、そもそも服屋に行けないという問題もありますしね。
天沼 そういうお客さまは多いですよね。あと、『airCloset』で出会ったブランドの店舗を見かけたから入ってみた、という動線も生まれています。昨年からはお洋服だけでなく、アクセサリーもレンタルできるオプションを用意し、アイテム拡充をしました。さらに今後は、メンズやシニアなどの領域にもサービスを広げたいと考えています。
最終的には海外展開も視野に入れていて、アジアの国々に対してリアルタイムに日本のスタイリストたちが知っている着こなしやコーディネート、トレンドなどのファッション文化を届けたいと考えています。
田岡 実際に『airCloset』を使うようになって、ファッションを楽しめるようになったという声は多いですか。
天沼 多いです。ファッションにかける消費額が増したという人も多いです。我われは幅広いブランドを取り扱っているため、ほとんどの方が新しいブランドに出会います。その出会った方の半分がそのブランドをWeb検索したり、ECサイトを訪問したり、店舗に寄ってみたりしているようです。
田岡 そうなると、メーカーさんに対して仕入れの交渉もできそうですね。
天沼 はい。例えば、店舗で数十万回という試着回数を生み出そうと思えば、相当大変ですが、我われであれば可能です。
田岡 「Spotifyから生まれるヒット曲」があるように、「『airCloset』から生まれる人気商品」もありそうですね。
天沼 そうなんですよ。最近ではデータ活用の一環として試験的に、フランドル様の「INED」というブランドで『airCloset』限定の型をつくり貸し出して、お客さまからのフィードバックを製造に生かすということを始めています。
ほかにも、最適なお洋服の生産量を導き出すなど、データを使ってメーカーさんのお手伝いができる部分は多いのではないかと感じています。
田岡 会社はさらに成長されると思いますが、エアークローゼットとして、あるいは社長である天沼さん個人として伸ばしていきたいという領域はありますか。
天沼 経営者としては本当に未熟なので、全方位的に学び続けたいと思っています。
田岡 特にどういったところですか。
天沼 組織の構成や仕組み化については、まだまだこれからだと感じていますし、例えばKPI管理の方法は他にあると思っています。今後、事業を拡大していくなかでディスクロージャーをどう考えていくのかも私なりの考えを整理しているところです。
組織全体としても、PDCAの速度をもっと速められると感じているので、筋トレをしていきたいですね。
田岡氏 対談を終えて
サブスクリプションサービスは、NETFLIXのようなデジタルサービスで「変動費≒0」もあれば、エアークローゼットのように実際に物が動き利用され、それに伴って物流費、クリーニング費、商品の劣化に伴う原価償却費といった変動費が掛かるものもあります。当然、後者の方が変動費が多く掛かり、それら多項目のコストをいかにコントロールするかが利益を確保するために重要になります。
エアークローゼットもクリーニングの方法などに独自の工夫をされています。オペレーションを構築するのが大変で、一つひとつ形づくっていったと天沼さんもおっしゃっていますが、多項目のオペレーション管理ができているからこそ今のエアークローゼットがあるのでしょう。
売上に占める変動費比率が高くなることは経営上の問題になるため、それを下げるためにはコストダウンか、そうでなければプライスアップや商品回転率のアップという方法があります。もちろん簡単ではないですが、価格を上げることができれば、当然変動費比率を下げられますので、物が動くサブスクリプションサービスの場合は価格設定が非常に重要になります。
また、商品回転率が上がれば一利用当たりの減価償却費が下がり、変動費比率が下がりますが、そのためには品揃えを絞ることが必要となります。結局、価格と品揃えをどうするかが、新規顧客獲得コストと利用継続率に影響するという「商売の基本」がサブスクリプションビジネスにおいても重要です。物が動くサブスクリプションにおいては、それらのバランスを取るのが難しく、上手くいけば、大きな競合優位となるでしょう。
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