ビジネスにイノベーションを起こす「思考法」 #50

敏腕マーケター 伊東正明氏は、吉野家をどう好業績に導いたのか。入社から現在までの戦略を追う

河村社長が伊東氏に期待した「お客さまベースの経営」


田岡 伊東さんは、河村さんから何を期待されていたのですか。

伊東 吉野家のような日常使いの飲食業は、良い食材をできるだけ安く仕入れて、それをマニュアル化してチェーン展開するというビジネスモデル。チェーンストア理論では、マーチャンダイジング型経営と言われるものです。

そのため会社の業績は、実は牛肉の市場価格とかなり連動しています。牛肉が安く仕入れられれば、余ったお金でいろいろなことが仕掛けられて成長できるし、それが厳しくなれば何もできない。そんなマーチャンダイジング型経営にもっとお客さまベースのマーケティング視点を入れたいと言われました。

田岡 それはTポイントを導入されていたように、顧客との関係を理解して、ライフタイムバリューを伸ばすようなことですか。

伊東
 その通りです。まさにTポイントは、顧客を理解しなければという問題意識から導入しているものです。ただ分析するにも、最低1年分のデータが貯まらないと使いようがないので、私が入社する大分前から導入してもらっていて、ちょうど私は使うところから始められました。

メーカーと外食の違いにひと苦労


田岡 P&Gと吉野家では、メーカーと外食チェーン、外資と日本企業など、カルチャーが異なるポイントがたくさんあると思うのですが、実際に転職されてどうですか。

伊東 一番感じるのは、メーカーと外食チェーンという業態の違いですね。まず、店舗という存在は、営業の場であり、人事の採用の場であり、工場なんですよね。

田岡
 そうですよね。

伊東 メーカーにいた人間からすると、商品の品質を一定にできないことはありえません。だけど外食では、調理や接客が100%マニュアル通りに行われるとは限りません。お客さまの最終的な満足が上振れも下振れもするのに、「何を約束できるのか」という私自身の肌感覚をつくることに最初は苦労しました。

さらに工場であれば、何をすればどう生産性が変化するかがすべて数字で分かりますが、店舗は人がしているので作業を増やすなど深く介入し過ぎると崩壊します。人という振れ幅のある変数が商品に入ってくるとき、施策をつくると同時に店が一生懸命になって再現性を高められるためのモチベーションやインセンティブも考えなければうまくいきません。その大事さに気が付くまで、少し時間がかかりましたね。



田岡 その肌感覚は、どうやって掴んでいったのですか。

伊東 P&Gのときも小売店の店頭をコントロールすることが非常に難しかったんですが、90%以上が直営店である吉野家であれば、「できるに違いない」と思って、まずは店舗を訪問しました。そこで、でできていないことを発見して、その理由を私自身が考えていくんです。

例えば、店舗をまわる中で実際にできていない点を目視で確認し、施策が現場の人に理解されていないことが分かれば、次回以降は伝え方を変えてみたりしていきましたね。

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