米国・空軍ROTCから電通に行き着いた、クリエイターのキャリア論 #01

「キャリアは計画された偶然」米国・空軍ROTC生が電通でクリエーターになるまで

キャリアのほとんどは「計画された偶発性」で成り立つ


 そんな経緯もあり、人生の1社目で通信事業の営業に配属されたのだが、私はマーケティング、強いてはクリエーティブでのキャリアの重要性に気づいたのも社会人1年目だった。

 当時、新規で大手不動産企業のネットワーク基盤のコンペがあり、競合他社の提示価格はこちら側の2割以上も安かった。ネットワーク基盤の場合、設備事業なので提供するサービスの質にそこまで差別化が出来るものではないため、付加価値による差別化が難しい。

 そこで私はクライアントをインフラ基盤設備の見学ツアーに招待し、実物を見ながらこちらが提示するプロダクトやサービスに対する「思い入れ」を構築していく戦略に転じた。

 その結果、めでたく数億円規模の案件を新卒1年目で受注することが出来た上に、私自身もクライアントの「思い入れ」という付加価値(ブランド力)やそれを訴求するクリエーティビティの重要性を認識することになった。



 この経験はスタンフォード大学のジョン・D・クランボルツ教授が唱えた「計画された偶発性理論/Planed Happenstance Theory」に基づいていると言える。

 これはキャリア形成において有名な理論で、「個々のキャリアの8割は予想できない偶発的なことで決定される」というもので、その偶然をいかに計画し、自分のキャリア形成を良い方向に持っていけるかというものだ。

 一見、「偶然」と「計画」はまったく違う単語だが、クランボルツ教授は「いかに偶然を計画できるか」ということの重要性を論じている。

 よく講演などで「アーロンさんは自分のキャリアをどう計画されたのですか?」という質問を受けるが、これは未来予想と同じで、自分自身のキャリアを意図的に積み上げていくことは、未来から来た人でない限り不可能なのだ。さらにデジタル化が時々刻々と進む今日の社会では、計画的にキャリア形成をすることは非現実的以外の何ものでもない。

 では、何が「計画された偶発性」なのかというと、予想できない未来をただ単に待つのではなく、自らつくり出せるように積極的に行動し、時代の流れに神経を研ぎ澄まし、「偶然を計画的に変化させてチャンス(機会)にする」という考えなのだ。

 そのため、クランボルツ教授は好奇心、持続性、楽観性、柔軟性、冒険心の5つの行動方針を提唱している。 
 

 私の例で言えば、絶望的だった案件で価格競争ではなく、今の時代に必要なインフラという概念を再定義し、ポジティブな考えでクライアントをインフラ基盤設備の見学ツアーに招待したことで、継続的な関係を築けたといったところだろう。

 そこから「思い入れ」から成る付加価値(ブランド力)やそれを訴求するクリエーティビティの重要性を認識し、社会人3年目で大手メーカーに転職した。

 ちょうど時期的に「電力自由化改革」への規制緩和の最中で、電力会社がユーザーの獲得を気にしなくてはならなくなった時期、私はライフステージでの消費者購買行動での適切な広告掲載に関するデータ事業の担当(システムレイヤー/サーバー、iOSなど)を経て、その後、メガベンチャーに転職し、本格的にデジタル広告やコンテンツ事業(アプリ/一般的なアプリケーション層、プラットフォームなど)の経験を積んでいった。

 この段階でようやくIT領域の全領域をある程度経験したので、3社目のメガベンチャーで「成長産業に注力すべきだ」という概念をもとに「事業開発」と「クリエーティビティ」を自身の柱にしようと思ったのだ。

 そこで外資ベンチャーの顧問兼ディレクターを経て、電通に入社したのがこれまでの私のキャリア形成だ。  

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