ビジネスにイノベーションを起こす「思考法」 #51

吉野家 伊東正明氏が明かす、ヒット商品を生み出す「アイデア開発とフレームワーク」

前回の記事:
敏腕マーケター 伊東正明氏は、吉野家をどう好業績に導いたのか。入社から現在までの戦略を追う

ひらめきの裏側にある思考法


田岡 (前編は、こちら)今日お話をお伺いしていると、伊東さんは吉野家へ入社して以来、「ライザップ牛サラダ」で高たんぱく・低糖質の食事を食べたい人を取り込んだり、朝食やテイクアウトを訴求することで新たな利用シーンを開拓したり、いろいろなアイデアが次から次へと出ていますよね。どうすれば、そんなふうにできるんですか。
      
田岡 敬
エトヴォス 取締役 COO
リクルート、ポケモン 法務部長(Pokemon USA, Inc. SVP)、マッキンゼー、ナチュラルローソン 執行役員、IMJ 常務執行役員、JIMOS(化粧品通販会社)代表取締役社長を経て、ニトリホールディングス 上席執行役員。2019年1月21日より、エトヴォス 取締役 COO。


伊東 アイデアを出すには、ずっとアンテナを張っているしかないと思っています。私の場合、吉野家の平日/休日・時間帯、そして立地別の客数、客単価などが頭に入っています。そして、どのタイミングでどの店舗へどんな客層に来てもらいたいのかを通勤している時も、どこかの店に行く時もずっと考えているわけです。

この、いつ、どこに、どんな人が来るのかというパターンの多さが「アンテナの数」です。だから、なぜできるのかと問われれば、たぶんアンテナの数が多いという答えになるでしょう。

そして、このパターンごとの戦略の精度が「アンテナの感度」。これを高めるためには、店舗の冷蔵庫にある食材や現場のスタッフの力など、吉野家ならではと言える強みやブランドイメージといったリソースを組み合わせることが必要です。これらによって、我われにできること、つまり成果につながるアイデアが見えてくるのです。
   
    
伊東正明
吉野家 常務取締役
P&Gにてジョイ、アリエールなどのブランド再生や、グローバルファブリーズチームのマーケティング責任者をアメリカ・スイスにて担当。ヴァイスプレジデントとしてアジアパシフィックのホームケア、オーラルケア事業責任者、e-business責任者を歴任。2018年1月より独立、ビジネスコンサルタント。また、吉野家 常務取締役も務めている。

田岡
 アンテナの数と感度というわけですね。

伊東 あとは、市場をどう捉えるか。そもそも市場分析をするときに、「人の1年間の食事回数が1095回」という話をしている人は、そう多くありません。

外食で働いている人の共通認識として“胃袋シェア”という言葉があり、ライバルはコンビニなどの中食だと言っている人はたくさんいます。ただ、日本人の外食の年間平均回数がだいたい100~140回だと調べて、食事が1095回あるので残りの約1000回伸ばせるから、“外食が入っていない可能性が高い胃袋はどこだ”というアンテナを立てている人は少ないんですよね。

田岡 外食を食べていない1000回の方が大きいし競争もない。だから、そちらを狙った方が、ROIが高いという実感はありますか。

伊東
 はい。それをやらなければ、外食は潰れます。

田岡
 そうしないと外食同士の泥沼戦争ですもんね。あとは、外食をしていない人たちが食べているものから、それらをリプレイスできるようなシーンやTPOを考えるわけですか。

伊東 そうです。たとえば、外食は家で調理し続けるよりもお金がかかるじゃないですか。でも、困っている人は、それにお金を支払っている。

アンテナを張ってから先は、そこまでロジカルな考え方があるわけでもないです。アンテナを張って、刺激をいろいろなところにぶつけていって、あとは大喜利するしかないんですよね。

田岡 大喜利というのは、お題の設定が大事ということですね。お題さえ設定されれば、大喜利のようにうんうん唸って考えれば、なんとか答えが出るということですね(編集部注:伊東さんは高校時代に落語研究会に所属)。

でも、最初はいわゆるTAM(Total Addressable Market)と言われている、市場にどれだけ余地があるか、そこからどんなお題を設定できるかから入るということですよね。そこは基本にしておかなければならないと。

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