ビジネスにイノベーションを起こす「思考法」 #51
吉野家 伊東正明氏が明かす、ヒット商品を生み出す「アイデア開発とフレームワーク」
外食業はマーケターの天職?
田岡 P&Gのような大きなメーカーですと、新商品テストは、工場に商品をつくってもらったり、リサーチも綿密に行ったり時間が掛かりますよね。それが、外食では、すぐに自社の店舗で試作品をテストできます。そのスピードがマーケターの思考にも影響を与えると思っています。
伊東 もちろんです。このスピードの速さは、メーカーにいた人間からすると超ありがたいです。どちらかと言えば、吉野家は飲食業の中でも慎重に事を進める方ですが、それでも10~20店舗規模の実験が2カ月でできてしまいます。
田岡 私は常々、マーケターは外食業に向いていると思っているんですよ。足立さん(ナイアンティック シニアディレクター 足立光氏)もマクドナルドで大きな成果を出されましたし、伊東さんとP&G時代の同期である刀の森岡毅さんも丸亀製麺の支援で力を発揮されていますよね。
伊東 そう、それはありますね。そういう意味では、吉野家に入ってから消費者調査は、ほとんどしていないですね。なぜなら、やった方が早いから(笑)。それは、入社当初に河村社長から言われたことで、「本当にそうかな」と思っていたら、実際にそうでしたね。
伊東流、コミュニケーションのコツ
田岡 伊東さんは、上司や部下、取引先などとのコミュニケーションもすごくお上手なイメージです。何か大事にされていることはあるのですか。
伊東 参考になることと参考にならないことをひとつずつお話します。参考になることは、相手に説明するときにフレームワークと具体的な話の両方をすること。
要するに、具体的な施策だけを話しても、なぜうまくいったかが分からないけれど、いくつかの具体例をひとつのフレームワークに当てはめながら、これもこれもそうでしょと話すと、なるほどと理解してもらえる。それを、とにかくやっています。
まったく参考にならないのは、私が落語をしていたことですね(笑)。
落語は、頭を使わずに噺ができるようになるまで練習します。なので、お客さんに落語を披露しているときは、身体は落語をしていますが、頭はお客さんの顔をずっと見ているんです。そして、今日のお客さんにはこれがウケるから、あそこをこう変えようというふうに、話しながらずっと頭で計算しているんです。
田岡 反応から話を修正しながら、しゃべるんですね。
伊東 そうです。だから普通に誰かと話しているときにも、相手の目や表情から、今は理解してもらえていそう、興味持っていそうということを読み取りながら言い方を変えているんです。それは落語という部活動で練習したからできていることなんです。