「元書店員マーケター」オススメの一冊 #09
デジタルマーケティングの教科書として、推薦したい2冊
顧客と継続的な信頼を築き上げていく大切さ
オイシックス・ラ・大地などで活躍する、マーケターの西井敏恭さんの本は、私のコンサルティング先で教科書として使わせていただいている。
この2冊に共通して言えることは、常に顧客行動を重視し事業をどう“見える化”するか、その上でさまざまな施策とその役割、見るべき数値を説明している。それも難しい専門用語は極力少なく、分かりやすい言葉で丁寧にだ。
こう説明すると「初心者向け」と思われるだろうが、そうではない。そもそも企業にとって大事なのは、高度なマーケティングツールのテクニックや流行りのビジネスモデルを追うことではなく、基本を積み重ねて顧客と継続的な信頼を築き上げていくことだろう。その積み重ねの部分が、2冊ともに丁寧に書かれているのだ。
たとえば、『デジタルマーケティングで売上の壁を超える方法』の次の一節は、マーケティングがデジタル化されたからこそ“見える化”できた顧客行動を新規とリピートに分けて、やるべき施策と評価軸について明快に説明している。広告の役割についても、経営から現場まで誰もが理解できる内容だ。
「いわゆるF2は、実は新規に近いのです。広告で新規顧客を獲得し、クーポンで2回目を買ってもらうといったところまでを私自身は『新規』と呼んでいます」
「広告担当者はCPA(コスト・パー・アクイジション)を見ますが、売上という観点で重視すべきなのはCPO(コスト・パー・オーダー)です。広告で新規を獲得するときは指標としてCPAを見るしかないけれど、F2以降はCPOを見なければいけない」
こうした西井氏の姿勢は、『サブスクリプションで売上の壁を超える方法』からも見てとれる。
第4章で「サブスクリプションのKPIは『会員数』『稼働率』『単価』の3つです。会員数は~有料会員数のことで無料会員は数えません。稼働率は、ある期間内で有料会員がどのくらいの頻度で利用しているのか~単価は商品やサービスの提供価格です」と見るべき指標を明確にし、その下に新規/既存分解などをKPIツリーにする。誰が見ても理解できる成果の測り方だ。
そして、その上で「顧客獲得の広告費はLTVから算出する」とし、「LTVがCPOを超えていれば、キャッシュフローが続く限り、その事業は利益を生み出すことができます」と、事業収益構造について明示する。
数字の見方を明確にした上で、両書のタイトル通りに一つひとつの「売上の壁」を取り上げては解決方法を提示していく。しかも、その方法は単体ではなく、全てKPIツリーに明示された構造や顧客行動の中でつながっていくのだ。