リユース業界の革命児。バリュエンス 嵜本社長が挑む世界攻略と、個人資産の見える化

 

「買った瞬間から資産化」アプリで潜在顧客にアプローチ

田岡　今後は買い取りもオンライン化していくんですか。

嵜本　向こう5年はリアルが強いと思いますが、10年で見ると、オンラインに移行する可能性が高いと思っています(編集部注：新型コロナウィルスの感染拡大の影響を受け、5月18日よりオンラインによる買取サービス「Quick Sell（クイックセル）」を開始)。

ブロックチェーンがスタンダードになれば、誰がどこで何をいくらで買ったかというデータが記録される。そうなれば、モノの真贋を確認する必要がなくなります。今まで25分かかっていた買い取り商談の時間も、5分に短縮されるようになるでしょう。

それから、中国のように「人の信頼性」がスコア化される未来になれば簡単に嘘がつけなくなるので、商品の状態もオンラインで報告してもらえば、リアル店舗に行く必要もなくなります。とはいえ、リアル店舗はこれからも残り続けると思いますけどね。

田岡　そうですね。日本もだんだん個人保有資産がない国になってきましたけど、買い取る対象がなくなることはないんでしょうか。

嵜本　ラグジュアリーブランドで言えば、まだまだ可能性はあります。実際にリユース業界に売っている人は、保有者の20％にも満たないと言われています。日本では約3兆円のブランド品が毎年販売されていますが、リユースされているのは、そのうち20％とすると6000億円程度。残りの2兆4000億円は、各家庭にストックされていることになります。

そこで、今まで見えていなかったモノの価値が見えるというコンセプトで、モノの資産価値が分かるアプリ「Miney(マイニー)」を立ち上げました。自分が持っているモノが売りモノになると思っていない方に、使っていないモノの価値を伝えて検討の視野を広げてほしいと思っています。

田岡　でも、売ることを想像していない人は、そもそも「Miney」をダウンロードするのでしょうか。

嵜本　その潜在的な顧客に対してのアプローチは、これからマーケティングでやっていくことだと思っています。

田岡　なるほど。それが、これからのチャレンジなのですね。

嵜本　はい、そのお客さまが興味を持つような、たとえば相続や生前整理、終活などの文脈で入っていき、お客さまとの関係性を構築するマーケティングを考えています。

単に「買取り ロレックス」というワードを狙うだけでは、パイの奪い合いになってしまうので、私が狙っているのは川上の、その商品を購買した瞬間です。

田岡　潜在顧客というわけですね。

嵜本　はい。不動産や車などと同様に、ブランド品や時計、ジュエリーも買った瞬間から資産として捉えられるようになってほしいと思っています。

今は特にお客さまに必要とされていなかったとしても、私たちが価値を提案していくことで、リアルタイムの時価が分かることの利便性を感じてもらえるようにしていきたいと思っています。これによって、買取り数を増やしつつ、販売先をグローバルに広げることで、さらに成長してきたいと考えています。
 

田岡氏 対談を終えて

 嵜本さんの発想は、柔軟かつ大胆で、業界慣習や前例などに囚われていません。その源泉は異業界から来たということもあるとは思いますが、それよりも他業界の動向も含めた情報収集と現場感覚の合わせ技による「先読み力」にあるのだと思います。「将来は必ずこうなるのだから、打ち手はこうするのが自然」と嵜本さんの中では無理のない当たり前が、周囲には斬新で大胆に映るのでしょう。

 また、ヤフオクで販売していた時代から肌身で感じられてきたのだと思いますが、売買ビジネスを行っているのだから、「需要量と供給量に基づく、売り手と買い手の力関係が重要」という基本を外さない考え方も参考になります。リユースビジネスも買い取りという側面では2:8の法則が当てはまり、少数の顧客が多品の買い取りを希望することを自らの経験から実感し、顧客当たりの買い取り点数を最大化するために「粗利ミックス」で値付けをし、全体の買い取り金額を最適化されているのも重要なポイントです。

 新型コロナウイルスの影響により、オンラインでのオークションと買い取りを前倒しで開始されましたが、構想され準備されていたからこそ、このスピード感なのでしょう。withコロナ時代の施策実施のスピードは、企業間による差が非常に大きいですが、環境変化が起きてからの対応スピードの差というよりも、常々将来に対して構想や実験を行なってきていたのか、差が出ているのだと思います。

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