「マーケティング」という大海を、航海するための羅針盤 #06

DeNA 今西陽介流、コミュニティマーケティングを成功に導く十カ条

 

四.自社のPODは、何なのか?


 コミュニティに参加してほしいお客さまを定義したら、その人たちが満足することを設計します。ここで大事になるのが、PODです。PODとは「POINT OF DIFFERENCE」の略称で、他社と比べて自社が提供できる便益や独自性です(参考:ビジネスはドラフト会議。選ばれる人材の条件を、マーケティングのフレームワークで考える)。

 この初期段階で避けるべきは、金銭的なインセンティブを出すことです。私も場合によっては、ギフト券などインセンティブを提供するキャンペーンを行うこともありますが、なぜ避けたいかと言えば、自社しか提供できない便益ではないからです。例えば、自社が先行して還元系のキャンペーンをしているとき、後発で資本力のある会社が高還元のキャンペーンで追随してくると、埋もれてしまうリスク大です。この場合、お客さまはPODより還元額を比較してしまいます。こうなると、せっかくのPODが台無しになる可能性もあります。

 直近の事例で言うと、モバイルペイメントのマーケティングはスピードが勝負なため、インセンティブを大量に付与してユーザーを集めることを優先していました。そして、ユーザーを一気に増やした後に、アプリの利便性や加盟店の数で囲い込むことを狙っています。これはタイミングが重要なうえ、資本力のある会社ができる特殊な手法であり、同じように現金還元という手法だけを真似するのは危険な場合があります。



 では、金銭じゃないインセンティブとは何なのか。例えば、DeNAの場合、スマートフォンのアプリを運営しているので、次のような考え方ができます。
 
  • リリース前の機能を、先に体験できるように招待する。
  • 運営責任者とディスカッションができ、サービス改善の要望を伝えられる。
  • 必ずしも金銭では測れない限定ノベルティ(シールとかバッジ)がもらえる。
  • 会員証がもらえる。

 サービスごとにPODは何か、ディスカッションして決めることが大切です。濃いファンであればあるほど、物理的なものではなく、情緒的なものを提供することを念頭においた方が良いのは経験上、間違いありません。
 

五.目標を達成する上で、バリアになることは何か?


 施策の実行前に必ず、プロジェクトリーダーがシミュレーションしておきたいのは、「何が課題か」です。課題がなかったら、すでに事業を動かしているわけで、何かしらあるからこそ、今までコミュニティをつくっていなかったはずです。

 例えば、施策に対してリソース(人、物、お金)が足りないというケースがよくありますが、これは、あれもこれもやろうとせずに、まずはスモールスタートでいいので始めることが重要です。ビジョンや目線は、大きく高く持つべきですが、それはいつまでに達成するという時間軸を決めておけばいいのです。

 また、KPIが立てられないというのも課題のひとつかもしれません。こちらについては、次回説明します。
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