"Go Funny" 迷ったら面白い方を選ぶ、外資経営者のキャリア論 #04
突然、自分の勤める会社が買収(M&A)された時に必要な心構えについて
エピソード2 :入社翌日に買収?
時は移り、2013年夏、米国西海岸のアドテクベンチャー Adap.tv社の日本市場における最初の代表に就任した私は、ガイダンスを受けるべく入社初日を米国本社で迎えました。
その翌日、突然上司のショーンが私を散歩に連れ出します。そしてベンチに座り、こう言うのです。
「実は、AOLがAdap.tvを買収するという話があるんだ」
私は驚き「え、それは何%くらいの確率なの?」と尋ねると、「99%」という答えが返ってきました。
「おいおい、それって自分の入社前にすでに確定していたんじゃないか。入ったばかりで買収されるなんて、晴天の霹靂ってこういうことを言うの?」と思いましたが、ショーンは「で、どうする?」と聞いてきます。
ここで「どうするか考える」とか、“イケてない”返答をしても仕方がないので、「ショーンがやるなら、俺もやる!」と素敵な回答を一瞬にして思いつき、結構なドヤ顔で言っておきました。
AOLは、20年程ほどトム・ハンクスとメグ・ライアンの共演する映画『ユー・ガット・メール』のインターネット・サービス・プロバイダーとして有名な会社です。
かなり昔に流行った会社でしたが、まだ日本法人も存在しており、当時はAdap.tvの動画広告プラットフォーム事業とは異なるWebメディア運営をメイン事業にしていました。
まだ、Adap.tvの日本法人が設立されていなかったこともあり、Adap.tvはAOLの中の一部門としてスタートすることになります。
日本法人の代表に就任。突然のリストラ指令が・・・
私の、最初の半年間のミッションは、チームをつくることです。ゴタゴタしつつも盛大なローンチイベントを実施するなど、いろいろな仕掛けで早々、大手放送局やメディアから契約をもらえました。
仕事そのものは、少しずつ立ち上がってきたのですが、暗雲も垂れ込めてきます。まず「一緒にやる」と信頼していた上司のショーンがあっと言う間に辞めてしまいます。
そうした中でPMIに苦戦しつつも、何とか5人のメンバーが揃い、やっと最初のミッションが完遂できた2カ月後、一本の電話が掛かってきました。珍しく神妙な口ぶりでショーンの後釜の上司が「AOLからのオーダーで、今から気まずいことを伝える」と前置きして、次のように言い放つのです。
「リストラしてくれ」
「え、なんて言いました? リストラって、この前やっと採用ができたばっかりなんですが・・・」
「いやそれはわかっているんだけど、ダウンサイズしろという命令なんだよ」
「え、ダウンサイズって何人にしろって?」
「5人を2人に」
「おいおい、3人クビにするということ?」
「そうだ」
「いや、それでそのクビにされる人の中に俺は含まれるのか?」
「いや、君は含まない」
「それじゃ自分以外に1人しか残せないじゃないか? 自分もクビならまだわかるが、自分は残るとか、どの面下げて言えばいいんだ?」
「とにかくそういうことだ」
「どういうことか全く納得していないので、はい、そうですか、とは言えないな」
そう返事をして電話を切りました。
その夜、大学時代の同級生であるY弁護士に相談をします。
「こんなことになったんだが、どうしたらこの事態を避けることができる?」という質問に対して、Y弁護士は「そんなロクでもない会社辞めたら?」と言います。 普段はしっかりアドバイスしてくれるY弁護士ですが、時々あっさり身も蓋もないことを言ってくるのです。
「いや、俺は世間にこういうことをやるとコミットしたんで、ここで辞めるという選択肢はない!」と、なぜか私はムキになっていました。
さらに2週間ほど経過して、今度はAOLのグローバル人事との打ち合わせが入ります。本社の人事担当者は、「とりあえずリストラする3人を選べ」と言ってきます。
それに対して、私の方は「今、リストラすると日本での評判が地に落ちてしまい、乗り越えたとしても回復させて、再度成長曲線に持っていくのに数年ロスしてしまう。それに、どういうビジョンでリストラするのか教えてもらえないとできない」と抵抗し続けました。
しかし、あまりにも人事担当者がしつこいので、最後には「If I can’t follow your order, tell me what will happen to me!(あんたらの指図に従わなかったら、俺にどういうことが起こるか言ってみろ!)」とアウトレイジな啖呵を切るはめになります。