ビジネスにイノベーションを起こす「思考法」 #54

出光興産 CDO三枝幸夫氏が語る、デジタル変革と新サービスの着眼点

 

デジタル変革の必要性を啓蒙、バリューチェーン全体を最適化


田岡 その中で、三枝さんはどのような役割だったのですか。

三枝 私は当時デジタルソリューションセンターというデジタル変革を全社で進めていく部署を立ち上げ、顧客視点から新しいソリューションサービスを展開していくため、先ほど申し上げたようにお客さまに張り付いて調査するようなことから始めました。

その中でタイヤの空気圧管理やローテーション管理を徹底的にやれば燃費が良くなり、タイヤの持ちも良くなることが見えてきたのですが、それをスケールしようとすれば、フィールドサービスマンが何人いても足りません。そこで、デジタルを導入し、お客さまのコンディションをタイムリーに把握しながら、必要に応じて人や物を準備できるようにしていきました。

ただ、これを実現するにはバリューチェーン全体の人や物を巻き込み、デジタル変革を進めていく必要がありました。その際に重要になったのは、顧客起点です。たとえば製造部門や物流部門に対し、どこかのお客さまに製品を10本持っていかなければいけないと言っても、生産効率や物流効率を考えれば、100本などにまとめてほしいと思うのは当たり前です。そのときに、生産効率や物流効率が多少悪かったとしても、それをすることでお客さまのビジネスにどんなメリットがあって、トータルでは自社のコストもこれだけ下がるということが説明できれば、やったほうがいいという判断をしてもらえるようになります。

田岡 そうですね。つまり三枝さんは、コストやメリットを見える化することで各部門を説得しながら、バリューチェーン全体をシステムにつないで全体最適を図ったということですね。



三枝 そうです。部分最適では全体で見たときの成果につながらないことがありますが、顧客を起点にサービスや物流、製造、開発までをつないでいくことで、全体の成果が出やすくなります。CDOのメインの仕事は、全体最適のために各部門を説得することだと考えているほどです。

田岡 ブリヂストンでの実績を振り返って、三枝さん的には自分が何に一番貢献できたと思われますか。

三枝 最初はデジタル変革と言っても、社内では何それという感じでした。ただ、当時はGEがデジタル・インダストリアル・カンパニーに変革するといったことが非常に脚光を浴びていました。そうしたところと協業を通じてDXを体感することで全社にDX推進の重要性を認識してもらえるようにしました。それによって、心が変わり始めたということは大きかったと思います。

ほかにも、社内に広く理解してもらうためにトップからのメッセージを発信してもらえるよう働きかけたり、CEOの言葉を部署ごとに合った形に言い換えたりしながら、浸透させていきました。このように、CDOとしてデジタルテクノロジーと新しいビジネスを橋渡しする役目が果たせたかなと思っています。

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