ビジネスにイノベーションを起こす「思考法」 #55

出光興産 CDO三枝幸夫氏が見据える、ビジネス変革を担う「CDOの役割」

 

CDOに必要なのはビジネスオリエンテッドな考え方




田岡 CDOという仕事がこの先どうなっていくか、どのように考えていますか。

三枝 日本の場合、デジタル組織にいるとIT部門とどう連携していくか、みたいな議論になることが多いのですが、本来はもっとビジネス寄りの部隊のはずですよね。

DX(デジタルトランスフォーメーション)と言われていますが、ビジネストランスフォーメーションと言った方が、しっくりくると思っています。

テクノロジーそのものは、コモディティ化がどんどん加速していますよね。数年前までは機械学習といったら、優秀なデータサイエンティストが揃ってごりごりつくるという世界でしたが、今では便利なツールもたくさんあり、機械学習のアルゴリズムモデルが即時につくれるようになっています。

だからこそ、テクノロジーを供給するプレイヤーや事業会社のCDOは、テクノロジーを追い求めるというよりも、いかにそれを使いこなしてビジネスにするかの部分にもっと注力していく存在になると思っています。



また、同じ事業会社でも、消費者に近いところで事業を展開していくところと、燃料のようなフィジカルを伴う大きな事業を持っているところのデジタル変革では、少し進め方も違ってきます。

前者の場合、事業サイクルも速くて競争が激しい世界なので最新のテクノロジーを早く導入する事も重要だと思います。我われのような後者の場合、ある程度枯れた技術でも多くの従業員が上手く使いこなせば十分競争力が出せると思います。テクノロジーを使いこなす組織・人材を増やすことも重要です。

よく「ブロックチェーンを使って、何かやらなくていいのか?」みたいな話にもなりますが、Howの前に何を成し遂げたいのか、ビジネスモデルを考え、どんなテクノロジーを導入するのが自社にとって最適なのかを考えるのが事業会社のCDOの役割でしょう。

田岡 大事なのは、どの道具を使うかですよね。

三枝 そう思います。たとえば出光には、ドローンで撮った画像を解析してパイプの傷み具合を解析したり、振動計を付けてそこから故障を予測したり、最新の生産技術を研究する部隊もいるんですね。

しかし、故障が予測できたら故障する前に生産調整して機械を止めて修理する。そのために部品の調達をして修理する人員も集めて…といった付帯する業務全体を変革しないと成果にはつながりません。業務プロセス全体を見据えて変革して行くことが重要だと考えています。

つまり、組織をビジネスオリエンテッドに考えられるような集団にしていくことが、CDOに求められている役割なのかもしれませんね。

■田岡氏 対談を終えて

 ブリヂストンの事例は、モノ売りからコト売り(=サブスクリプション化)への変化に取り組んでいる企業にとって非常に参考になると思います。顧客と長期的関係を結ぶことでタイヤの再利用が可能になり、それによるコストメリットをブリヂストンとその顧客で分かち合う、という理想のサブスクリプションモデルになっていると思います。 

 その前提となっているのがブリヂストン独自のタイヤ長寿化技術であり、やはり付加価値を生む根源が必要であることを改めて認識させられます。自社の独自技術やアセットの棚卸しが重要ですね。サービス設計も顧客のタイヤに関する管理人員コストがゼロになるようにしており、参考になります。  世の中には、中途半端なサービスレベルでリリースするケースを散見しますが、顧客側のサービス体験が一定の閾値を超えないと無価値になってしまいます。最低限、超えなければいけないUX体験のバーを定めて、そこを超えて初めてサービスリリースとしたいものです。 

 DXの取り組みは、「対象が顧客か社内か」、「効率化か価値付加か」で四象限で整理されます。三枝さんの出光での3つの取り組みは、「Digital for Idemitsu」が「社内向け×効率化」、「Digital for Customer」が「顧客向け×価値付加」に分類されると思います。  Quick Winな「Digital for Idemitsu」から仕掛けて、社内の信頼をつくりデジタル化によりリソースシフトも行える状態にし、「Digital for Customer」や出光の枠を超えた「Digital for Ecosystem」に向かうというシナリオは無理がなくスピードも速く、勉強になります。
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