「元書店員マーケター」オススメの一冊 #02
【書評・逸見光次郎】店舗とECのあるべき姿が分かる良書『店は生き残れるか』(小島健輔・著)
店舗の存在価値は、ショールームにある
小島さんは、最終章で「省在庫・無在庫ショールームストア革命」を提唱する。決して店舗の存在を否定しているわけではなく、その役割が変わったと定義しているのだ。たくさんの在庫を積み上げたセルフサービス型の販売ではなく、「ショールーム」として店員からの丁寧な商品説明や試着のしやすさで、顧客が納得して商品を購入し、継続的にそのブランドのファンとなることを促すのだ。
これは、必ずしも価格訴求だけではない販売である。とはいえ、ショールーム化で在庫の一元管理やコスト低減も実施でき、小島さんが以前から提唱する適正な原価率による「クオリティの向上」も叶えられる。
最近、よく思うのだが、いまだに多くの企業が「デジタルか、アナログ(既存事業)か」の二択思考のまま止まっている。D2C(Direct to Consumer)だから全てネット化するのではなく、電話のコールセンターを使った方が顧客も安心できるかもしれない。自分たちがどうしたいのかの前に、市場(消費者・顧客)が何を望んでいるのかを知り、デジタルの活用で、その利便性が上がるのであれば活用すればいいのだ。
統合的な評価によって、店舗(ショールーム)は独立採算制で利益化が難しい拠点という立場から、ビジネス上の大事な顧客接点となる。マーケターは細かいデータ分析を生業にするのではなく、そのデータを元に全社視点と顧客視点で、双方にとって最適な環境を構築することが重要なのだ。
最後のコラムでは、AI接客に触れ、その活用方法について「顧客は自分の意思を理解してほしいのであり、類推を押し付けられたくない」「声掛け段階をAIに任せて、販売員のアプローチリスクを回避し、接客を効率化するメリット」と紹介している。最後の最後まで、現場視点と顧客視点を失わない、小島さんの姿勢が表れていると思う。
マーケティングに関わる方は、ぜひ本書から店舗とECのあるべき姿について読み取り、自身の戦略と施策に取り入れてほしい。
書籍情報
- 書籍名
- 店は生き残れるか ポストECのニューリテールを探る
- 著者
- 小島健輔
- 出版社
- 商業界
- 判型
- 四六判
- ページ数
- 160ページ
- 発売日
- 2018年7月1日
- 定価
- 1512円(税込)
- ISBN
- 978-4-7855-0538-4
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