ビジネスにイノベーションを起こす「思考法」 #09
人に会い、話を聞くことでこそ、ビジネスの構想は練られていく【サツドラ 富山浩樹、ニトリ 田岡敬】
インバウンド施策強化、台湾出店や決済導入
田岡 2017年にはインバウンドの専門会社も設立されましたが、インバウンド向け店舗という発想は、どこから出てきたものなのでしょうか。富山 インバウンドブームの前に、アウトレットモールにあった1店舗で外国からの観光客による売上が増えてきていたんです。その後、尖閣諸島の問題が浮上して一時的に赤字になったのですが、次にまた来ることを予想していたため、ほかの企業が様子を見ているなかで先手をとっていきました。
実はインバウンドに関しては会長の方が感度が高く、僕はチェーンストア化を進めていたことから、最初は正直やりたくないと思っていました。ただ、取り組んでいくうちに大きな可能性を感じ、WeChat PayやAlipayなどの決済導入やキャンペーンなどに力を入れていったんです。
田岡 台湾にも出店されましたよね。
富山 はい、日本で展開しているインバウンド向け店舗の延長で出店し、化粧品など日本で人気を集めている商品を販売しています。これは一過性のインバウンドやアウトバウンドを狙った店舗ではなく、今後はアジアンマーケットが一つになっていくと考え、この先もずっと続く市場への出店だと捉えています。
ドラッグストアがAI(人工知能)会社を設立
田岡 AI(人工知能)の会社AI TOKYO LABは、なぜ始めようと思ったのでしょうか。富山 EZOCAをスタートした時からお付き合いしているデジタル面のアドバイザーを通じて、AIの研究者にお会いしたんです。当時はまだAIブームを迎えていなかったのですが、話を聞いてAIによって世の中が確実に変わると感じたことがきっかけです。
田岡 まずはサツドラの事業に対して、AIを導入していく流れでしょうか。
富山 そうですね、もともとは「AI」という文脈で人を紹介したり、紹介していただいたりという立場だったのですが、話を聞いているうちにAIと小売との相性の良さを感じはじめました。というのも小売は労働集約型のビジネスなので、従業員が繰り返し行う単純作業が多いからです。
ましてや今は、少子高齢化をはじめとする社会問題や、北海道という地域の地理的条件を考えると、これまで以上に人材の確保が難しくなると想像されます。そうするとサツドラこそが、小売の現場をAIで変えていく必然性があると考え、設立当初から人的な関わりが深かったAI TOKYO LABに、昨年度より参画してもらうことになったのです。
今は北海道という土地のつながりもあり、北海道大学のキャンパス内につくったAI HOKKAIDO LABで研究開発を行い、そこで生まれた技術をAI TOKYO LABでマネタイズ化させていく流れにしていますが、今年度からはサツドラそして小売向けのソリューションの研究開発に割く比率を高めているところです。
田岡 突如としてAIの事業をスタートできることに、富山さんの凄みを感じます。AI領域の専門家は、どのように招いたのでしょうか。
富山 はい。それは私もそうですが、社長の北出宗治らAI TOKYO LABの創業メンバーに業界内外の人脈があったことが生きていると思います。さまざまな人に会い、紹介してもらい、これはという方には技術顧問に就任してもらいました(はこだて未来大学 松原仁教授・名誉技術顧問、北海道大学の川村秀憲教授・上級技術顧問、東京大学の鳥海不二夫准教授・技術顧問)。
そして何よりもAI TOKYO LABとサツドラが描く、AIと小売の組み合わせに多くの方が可能性と将来性を感じてくださったことが大きいと思います。それらによって現在では、社長の北出宗治を中心にビジネスをつくっておりますが、エンジニアを50人抱える規模に成長しました。