変革のカギを握るCxOの挑戦 #01

味の素をパーパス経営にシフトした福士博司氏が語る、変革の全貌とは

  パイオニア モビリティサービスカンパニー CCO & CMO 石戸亮氏がインタビュアーを務める新連載がスタートする。石戸氏はサイバーエージェント、Google、Datorama、Salesforceを経て、現在はパイオニアでCCO & CMOを務めている。ベンチャーや外資系企業、老舗企業など、さまざまな企業で得た経験から、マーケティング・DX・CX領域で活躍するエグゼクティブにインタビューして、その人が実績を出している裏側にある考え方を解き明かしていく。

 第1回は、調味料からアミノ酸含有食品など幅広い商品をグローバルで提供をする味の素 特別顧問(元・取締役 代表執行役副社長 CDO)の福士博司氏。2019年からCDOに就任してから2022年4月まで副社長CDOとして、営業利益の伸び率を134%(※1)まで成長させ、労働生産性を一人当たり1,700万円(※2)にまで引き上げるなどの実績を残した。その改革の背景には、CDOとしてのDXやデジタルをはじめとした労働などの全社改革を担ってきた。さらに、グローバルカンパニーの経営で成果を出した福士氏のキャリアから思考法まで詳しく聞いた。
 

5年連続で株価が下落。従来組織に限界を感じ、変革を提案した


石戸 福士さんがCDOに着任されたときのお話をお聞きしたいですね。味の素がDXに取り組み始めた2019年にはCDOを創設するなど、日本では比較的早い時期だったように思いますが、きっかけは何だったのでしょうか。

福士 きっかけは、味の素の企業成長に鈍化が見られたことです。当時は、売上規模がグローバルトップ10に入る食品企業を目指すという、ある意味、非常に明確な成長戦略がありました。しかし、残念なことに海外の成長が鈍化したことで数字がうまく伸びなくなりました。トップラインをつくるためにM&Aや既存事業の設備投資に走りましたが、それもあまりうまくいきません。加えて、かねてより構造に指摘のあった甘味料事業や動物栄養事業などのバルク事業の改革もスピーディーに進まず、5年連続で株価が下落してしまったんです。

それにもかかわらず、味の素は戦略もそれを支える組織と人材も、考え方を変えられずにいました。私はもともと技術系の仕事をやってきたこともあり、そもそも経営とは思考が違ったので、その辺の問題点がよく見えました。
  
味の素
特別顧問(元・取締役 代表執行役副社長 CDO)
福士 博司 氏

福士 もしかしたら既存の経営陣も見えていたかもしれませんが、屋台骨を支えてきたプライドもあってか、自ら変えることはできませんでした。その状態を目の当たりにして、私はもう組織が限界に達していると感じました。それで、このまま放ってはおけないと思い、社長に変革の提案を行いました。

 実は、DXするというのは、私の最初の意図ではありませんでした。私が提案したのは、経営変革や事業変革、組織文化変革でしたが、取締役会でさまざまな議論がされる中で、今の時代に変革するならDXだろうということでCDOになり変化していきました。

石戸 では、デジタルが先行していたわけではなかったんですね。トップラインを伸ばす会社から、そもそもパーパスを変えなければならないということから取り組んでいったんですね。

福士 そうですね。最初はパーパスが明確ではありませんでしたが、着任して2年目に「食と健康の課題解決企業」というパーパスを定めました。実は、それ以前から味の素はASV(Ajinomoto Group Shared Value)という価値観を掲げていたのですが、結局は理想を語ることばかりで、実際にはトップラインを追う経営になってしまっていました。

 具体的な変革を始めたのは、2020年の統合報告書で「味の素はパーパス経営に転換する」ことをきちんと宣言してから。そこで、グローバルトップ10クラスの企業という今までの目標をようやく捨てることができたんです。長期的には、2030年までに10億人の健康寿命を延伸し、環境負荷を50%削減すると掲げました。

 ※1:味の素株式会社 有価証券報告書 第141期、第144期より概算
 ※2:概算、外部購入価額を売上原価で計算

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