変革のカギを握るCxOの挑戦 #01

味の素をパーパス経営にシフトした福士博司氏が語る、変革の全貌とは

 

変革を起こすためのパーパス経営、自らが異質なナンバー2へ


石戸 パーパス経営は最近注目されていることでもありますが、それを打ち出すのは簡単ではなかったのではないですか。

福士 そうですね。パーパス経営は、企業の存在価値、つまりはその企業の北極星となるものを変えてしまうことなので、カルチャーから変えなければいけないんですよね。人事も組織も考え方も変えなければならないので、非常に大変で、時間もかかります。でも、だからこそ大きな価値があるんです。

 数値計画に基づいた従来の経営であれば、着実に数字が取れることにこだわってしまい、失敗することや、リスクのあること、新しいことなどに挑戦したがらなくなります。そして、予定通りの数字を出した人が成功者となり、最終的には経営陣もそういう人たちばかりになっていきます。

 パーパス経営はそうではなく、食と健康の課題解決を目指すことが大前提になるので、そもそも事業の大きさや、既存事業をやるのか、新しいことをやるのかといったことに囚われる必要がなくなります。この意識の変革はものすごく大変ですが、これを実現することができれば、既存の枠組みやしがらみに囚われずに、全社がワンチームになれるチャンスが増えるんです。

石戸 その中で、変革のために特に工夫されたことは何なのでしょうか。
  
パイオニア モビリティサービスカンパニー CCO & CMO
石戸 亮 氏

福士 人を大きく動かしました。たとえば、従来の経営会議メンバーは似たような経歴を持つ人が集まる非常に均質的な集団でしたが、社内でもいろいろな経歴を持った人たちを集めるようにしました。さらに、取締役会は監査役会設置会社から指名委員会等設置会社にし、議長も各種委員会の長も全員社外から集めました。それによって、トップ人事や組織変更、ガバナンスなどの全体を社外の株主の目線で決められるようにしたんです。

石戸 非常に大きな変革ですよね。他社でもファンドが入ればトップが大きく変わることはありますが、味の素はファンドが入ったわけではなく、業績も致命的というほどではありませんでした。そういった状況でなぜ変革を起こせたのですか。

福士 5年連続で株価が下がれば、危機感が醸成されるんですよ。順調であれば、おそらくこうはなっていなかったでしょうね。この期間の変革することに対する抵抗は、既存のままでよいというマインドが原因になると思います。

 ひとつ目の抵抗は、計画のままに変える必要がないという計画に対する抵抗です。2つ目は、政治的抵抗で、同じような経営陣が同じような事業をやればよいとう抵抗。3つ目は、未来に対する不安の抵抗で、現状を変えてしまうと、自らの仕事も変えなくてはいけないし、自らの将来に対する不安が生まれてしまうという、抵抗があると思います。

石戸 メーカーなどでも変革を起こしたいという話はよく聞きますが、どういう人材が変革の中心になるといいと思われますか。

福士 やはり変革の中心は社長です。ただ、そこには社長と異なる経歴や意見を持っている人もいなければなりません。いうなれば、社長と異質なナンバーツーが強力なペアを組むということですね。

石戸 異質なナンバーツー。よい言葉ですね。

福士 味の素では、まさに私が異質なナンバーツーでした。エレキ事業を切り離して新たな改革を進めていったソニーも、脱保険というコンセプトを打ち出したSOMPOホールディングスも、違う背景や考えを持つ人を集めて変革を成功させています。

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