国境は地図の上にない、心の中にある #01

生理用品売り場で悩む父と娘。元ユニ・チャームグローバルマーケティング本部長の「マーケティングの根幹」となった原体験とは

  木村グローバルマーケティング 代表の木村幸広氏は、ユニ・チャームで30年以上に渡りマーケティングに携わり、同社のタイ及びインド法人の代表などを歴任。本社の常務執行役員兼グローバルマーケティング責任者及びChief DX Officerとして、海外の重要拠点の黒字化に成功するなど、同社の成長に大きく貢献してきた。

 現在、同氏はユニ・チャームでの経験をもとに、さまざまな企業のマーケティング支援を行いながら、ペットビジネスをアジア各国で手掛けるアルダのCMOを兼務している。この連載では、世界で活躍するマーケターになるまでの軌跡を辿りながら、グローバルで成功する要件と、マーケティングに重要な消費者視点などを紐解いていく。第1回は、ユニ・チャームに入社してから学んだスピリットと、マーケターになる前に体験したお客さまと接することの大切さについて紹介する。
 

ユニチャームで感銘した、人の役に立つことの素晴らしさ

 
木村グローバルマーケティング合同会社 代表
アルダ株式会社 CMO
(元ユニ・チャーム 常務執行役員 グローバルマーケティングコミュニケーション本部長)
木村 幸広 氏

 私は子どもの頃、父親が靴のメーカーのセールスとして販売店に営業している姿を間近で見てきました。土日になると、商品を配達する父親に付いていき、靴屋の人から「お父さん、いつもよくやってくれているよ」と声を掛けられて、すごく嬉しかったことを覚えています。モノの売り買いを通じて、家族ではない他人から「人として好きになってもらう」、「頼りにしてもらう」ことが商売だと気付かされました。そうした経験から「商品を売る仕事」をしたいと思っていました。

 ユニ・チャームという会社に出会ったのは、就職活動の会社説明会です。当時は、売上の90%以上を生理用ナプキンが占めており、男性の兄弟しかいなかった私は会社の存在も知らなければ、ナプキンを見たこともありませんでした。ただ、事業は急成長していて社員の平均年齢も若く、活気がありそうな会社だなと感じました。

 特に覚えているのは、ユニ・チャームが「NOLA&DOLA」という言葉を大事にしていたことです。この言葉は「Necessity of Life with Activities & Dreams of Life with Activities」の頭文字をとり、「赤ちゃんからお年寄りまで生活者が様々な負担から解放されるよう、心と体をやさしくサポートする商品を提供し、一人ひとりの夢をかなえるために力を尽くし続けていきます」という決意が込められています。

 その中でも前半の「NOLA」には「不快」を「不快でない」状態にするという意味があり、「人が生きていくために必要なことをサポートしよう」という考え方が込められています。私はそのスピリットに惚れ込み、「この会社で仕事をしたい」と思いました。

 女性の生理は、月に1度、1週間程度もありとても大変です。その一方で、当時は人にはあまり言いたくない、隠したい存在でもありました。ユニ・チャームでは、女性が生理期間であっても元気に働いたり、友だちと遊んだりできるように負担をいかに減らすかを考えてナプキンを設計しています。このナプキンという商品を通して、生きていくために必要なことを人知れず、さりげなくバックアップしていく。私の父親と同じように、人の役に立っていることに感銘を受けました。

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