国境は地図の上にない、心の中にある #02

営業からマーケティングに異動し苦労。競合ではなく、お客さまを見る重要性【元ユニ・チャーム 木村幸広】

前回の記事:
生理用品売り場で悩む父と娘。元ユニ・チャームグローバルマーケティング本部長の「マーケティングの根幹」となった原体験とは
  ユニ・チャームで30年以上に渡りマーケティングに携わり、同社のタイ法人及びインド法人の代表などを歴任し、海外の重要拠点の黒字化に成功した経験をもつ木村幸広氏。この連載では、世界で活躍するグローバルマーケターになるまでの軌跡を辿りながら、グローバルで成功する要件と、マーケティングに重要な消費者視点などを紐解いていく。第2回は、営業からマーケティングに異動したときの葛藤とお客さまを見ることの重要性、マーケティングが持つ可能性について紹介する。
 

営業からマーケティングへの異動


木村グローバルマーケティング合同会社 代表
アルダ株式会社 CMO(元ユニ・チャーム 常務執行役員 グローバルマーケティングコミュニケーション本部長)
木村 幸広氏

 営業を経験した後、私はマーケティング本部に移り、国内で8年間マーケティングに従事しました。やはり、営業という仕事こそ「商売」だと思っていたので、実はマーケティングに異動したいと思ったことは一度もありませんでした。ただ、商品の生まれた背景やその裏にあるお客さんの気持ちには興味があり、たびたびマーケティング部門からそうした情報を聞いて、セールストークに活かしていました。そのような機会が増えるうちに、いつかは「マーケティングをしてみたい」と思うようになっていました。

 あるとき、盛岡の営業所に当時の支店長が来て、一人ひとり面談をしてもらう機会がありました。「やりたいことはあるか?」と聞かれたので、「せっかくメーカーに来たので、マーケティングの仕事をしてみたい」と答えたところ、支店長から「分かった、営業で数字を達成したら行かせてやる」と言われました。

 私は営業という仕事に対して不満はなく、マーケティングに強く異動したいと思っていたわけではなかったのですが、営業には自信があったので、そこから約2年間、毎月連続で目標を達成していきました。すると、「約束を守ったから」と支店長がマーケティング本部を紹介してくました。それが30歳のときで、同時期にマーケティングに異動した人の中では最年長でした。
 

「スペードのエースが出せない」マーケティングの本質に気づくまでの苦労


 私はマーケティングは絶対に20代でスタートすべきだと思っています。というのも、8年間も小売向けの営業に携わっていると営業の型が染みついてしまい、そこから頭を切り替えるのが難しかったためです。

 消費者にとって「何がダメで売れないのか」よりも、なぜあの店舗は「この商品の取り扱いを止めたのか」を考えてしまうんです。つまり、消費者よりも先にバイヤーや商品本部長の気持ちを考えてしまうわけです。

 また、異動したばかりの頃は、競合ばかりをみて仕事をしていました。たとえば、競合が新商品を出したら、自社も新商品を出さなければいけない。競合が値段を下げたら、自社も値段を下げようと試みる、といった具合でした。顧客ではなく、小売や競合ばかりをみていたので、メーカーにとってのマーケティングの本質とは、大きく異なる思考法です。

 特にマーケティングにおいて大事なのは、打った施策によって「お客さんがどう動いたか」です。そのことに直接、店舗に営業に行くことができなくなり、初めて気づきました。バイヤーや商品本部長を説得しても、たった1社の小売を動かすことに過ぎませんが、消費者を動かすことができれば、トータルの業績にも大きなインパクトを与えることができます。



 そのことに気づいてから、私はマーケティングという立場で何を仕事にするべきなのか、すごく悩みました。トランプでたとえるなら、私は「営業で成果を出し続けたことによって自分自身に蓄積されたノウハウ」というスペードのエースを持っているつもりでしたが、マーケティングのフィールドで必要とされているのはハートやダイヤばかりで、いつまで経っても切り札を出すことができないような感覚でした。

 当時、上司に「すみません、営業に戻してください」と言ったこともあります。そうしたら、送り出してくれた支店長から「もう少し頑張ってみては」と連絡がありました。でも、本気で戻ろうと思っていた私は、「私の机を残しておいてください」と伝えましたね(笑)。

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