変革のカギを握るCxOの挑戦 #09

パーパスの実現と変革に必要なリーダーシップとは?日揮ホールディングス CHRO兼CDOの花田琢也氏が語る

 

ビジネスのフェーズに応じたリーダーシップと鈍感力


石戸 本当に、すごい決断の経験値ですね。花田さんが、組織の変革をしていく上で大切にしていることは何ですか。
   
パイオニア チーフ・デジタル・オフィサー(CDO)
石戸 亮 氏

花田 リーダーシップだと思います。リーダーシップについては、リーダーのタイプを論じている本がたくさんありますが、私が考えるリーダーシップ論では、ビジネスのフェーズによって、求められることが変わると思っています。

まず、黎明期に求められるのは、チームのメンバーに指示する、コマンディングなリーダーシップです。最初は、みんな腰が重いので、それだけいろいろと指示する人が必要なんです。そして、ある程度ビジネスが立ち上がり、次に求められるのは、誰にどんなミッションを与えればいいかを考えて指揮する、オーケストレーティングなリーダーシップです。

最後に、安定期に入ってからはサーバントリーダーシップが求められ、次々に主役をつくって、その人たちを中心にビジネスを推進できるようにします。そのとき、リーダーに必要なのは「攻めの鈍感力」だと思っています。

石戸 攻めの鈍感力? 鈍感でいるということですか。

花田 そうです。私も時々、口を出してしまいますが「攻めの鈍感力」を持つことが大事です。常に組織で何が起きているかを理解しながらも、鈍感力ですから、いろいろなことには口を出さないということです。サーバントリーダーが現場に任せることによって、高い意欲で進めてもらうようにするんです。

実は紹介した、3つのリーダーシップを見事に演じている職業があるんです。それは、高校野球の監督だと思っています。チームをつくったばかりの7、8月は特訓というかガンガンチームを指揮するコマンディングなリーダーシップが必要です。でも秋口になると、春の甲子園に向けてどんなチーム編成にしたらいいかというオーケストレーティングなリーダーシップが求められ、最後は選手のみでも戦えるように主役を育てていくサーバントリーダーシップが必要になるんです。

石戸 リーダーシップはひとつのタイプではなく、ビジネスのフェーズによって異なることがよくわかりました。日揮グループとしての変革では、パーパスを新たに設定して進めていますよね。新たなパーパスは、組織にどのように浸透させているのですか。

花田 やはり、パーパスを設定して周知するだけでは、頭では理解できてもなかなか腹落ちはしません。そのため、2022年4月からパーパスジャーニーを始めました。これは、決して企業のパーパスを唱えるだけでなく、自分のパーパスの存在を捉えて、企業のパーパスを自分ごと化しようというものです。自分のパーパス、つまり自分の軸が何なのかを考えてもらうレクチャー、パーパスクルージングを始めています。

パーパスの話をヨットに例えてみましょう。ヨットにふく風は必ずしも追い風ではありませんが、逆風であっても帆をうまく張れれば、ヨットは前に進んでいきますね。企業のパーパスを風とすると、帆をうまく張るためにはヨットの軸となるマストがしっかりとしていることが大切です。このマストが自分のパーパス、自分の軸といえるでしょう。そういった軸を、一人ひとりがきちんと持つことができるように後押しをしていくのも、やはりCHRO(最高人事責任者)の役目かなと思ったりしています。

あと、人事部長になって最初に勉強したことは、ダニエル・ピンクの「モチベーション3.0」です。モチベーション1.0は食うため、生きるために頑張るという生理的な動機付け、モチベーション2.0は、報酬や出世のために頑張るという外部的な動機付け。モチベーション3.0は、内部的な動機付けとなる3つのキーワードです。ひとつはオートノミー、自律、自分に任せられていること、2つ目は成長実感、3つ目はパーパスです。このパーパスが、自分のパーパスや自分の軸となります。たとえば、生態系の進化を指して、一橋大学ビジネススクール 客員教授の名和高司先生がいわれる「ゆらぎ、つなぎ、ずらし」の「つなぎ」が自分の軸とのつなぎであると思っています。

人材の育成では社員のもっている志向性と適性の掛け算でキャリアパスを考えなければいけません。そう考えると、人事部門は従来からの人を管理する部門から、戦略をつくる部門に変革していくことが、今後求められていくと思います。経営戦略と連動する必要があるので、これからの人事領域には、やはりCHROが必要だと感じていますね。
   
対談中の花田氏(左)と石戸氏(右)

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