国境は地図の上にない、心の中にある #03

「国境は地図の上にない、心の中にある」 元ユニ・チャームグローバルマーケティング本部長の心得

  ユニ・チャームで30年以上に渡りマーケティングに携わり、同社のタイ法人及びインド法人の代表などを歴任し、海外の重要拠点の黒字化に成功した経験をもつ木村幸広氏。この連載では、世界で活躍するグローバルマーケターになるまでの軌跡を辿りながら、グローバルで成功する要件と、マーケティングに重要な消費者視点などを紐解いていく。今回は、本連載のタイトルである「国境は地図の上にない、心の中にある」に決まった背景と木村氏が経験した海外でのエピソード、国ではない地球という規模でビジネスを考えたきっかけについて紹介する。
 

国境は心の中にあると感じたエピソードとは


 今回の連載タイトルである「国境は地図の上にない、心の中にある」は、私の持論です。私は海外駐在時代も今でも、海外で仕事を経験したことのない人に対して、「海外で仕事をしてみたらどう?」と話をします。そうすると、みんな口を揃えて「いや、英語ができないから…」と言うことがとても多いです。これは言葉の問題ではありません。多くの日本人は、国境を超えて日本以外の地域で仕事をすることに抵抗があると感じます。

 特に日本人は「海外の人は日本人と価値観が違うから」と強く思い込みがちな気がします。しかし、私は実際に海外で仕事を経験してみて、結局は「みんな同じ人間だった」と感じることのほうが圧倒的に多くありました。これは一緒に働く社員も、お客様も同じです。我々は海外を見るときについつい『違い』に目を向けたくなりますが『同質性』に目を向けると同じことが圧倒的に多いと感じます。また「Global(グローバル)」という単語も、「Globe(グローブ)=地球」が形容詞化したものです。つまり、グローバルマーケターやグローバルで仕事をすることは、「地球の上で仕事をする」という意味になります。

 私がタイで働いていたとき、突然アフリカのある国のバイヤーが「商品を仕入れたい」と飛び込んできたことがありました。話を聞くと、タイを歩き回りながら買い付けをしていて、日本のメーカーの商品を見つけて、「これはいい!」と思ったそうです。お互い拙い英語で話をして、私はその申し入れを承諾し、商品をコンテナ1個に入れて船で届けることを約束しました。タイという国で、日本人とアフリカの人が商談をし、その日にタイから出荷した商品は海を渡って世界の誰かの手に渡り使われる。そのとき、私は「地球の上で仕事をしている」と感じました。



 一般的に海外進出というと、進出先の国のマーケットを調査し、その国の中でどのくらいのシェアを取り、儲けるのかを考えます。しかし、海外で販売した商品がさらに国境を超えて誰かに使われることも「グローバルマーケティング」だと分かったんです。

 現在の日本では、海外のマーケットに目を向けることが求められています。しかし、多くのマーケターは地球上で何%、あるいは何人に自社の商品・サービスを使ってもらえるのかを考えたことがないように思います。そのような視点をマーケターが持つことによって、企業は必ず変わると思います。心の国境を取り払って、海外でビジネスを開拓しようという人がもっと出てきてほしいという想いから、「国境は地図の上にない、心の中にある」というタイトルにしました。この連載を通した私の願いです。

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