国境は地図の上にない、心の中にある #04

紙おむつ界の革命児「ムーニーマン」の開発秘話と、マーケティング思考の根本【元ユニ・チャーム 木村幸広】

 

お客さまの“困り事”から生まれた「ムーニーマン」


「ムーニーマン」が成功した要因は、全く新しいコンセプトのプロダクトを世の中に打ち出せたことです。しかし当時、「パンツ型の紙おむつが欲しい」ということは、お客さまは一言も言っていません。

 では、なぜ「ムーニーマン」が生まれたのか。それは観察がアイデアの発案に大きく貢献したからです。お客さまを観察する上で大事なことは、「お客さまが無意識のうちにどういう動きをしているのか」を、ひたすら見ることです。実際にお客さまの行動を見ていると、普段何気なくやっているように見える動きを、実はとても面倒そうにやっていることが見えてきます。



 それから、「コンセプトを実現できる機能を持ったプロダクト開発」も重要です。赤ちゃんがぐずって暴れたり、おむつを替えようとしたら逃げられたりすることは日常茶飯事。赤ちゃんがいると当たり前に起こることなので、お客さまもあえて言葉にしませんが、これは困り事なんです。

「ムーニーマン」を発想した開発者は、ゼロから発想しただけでなく、このような困り事を自らが担当している商品でなんとか解決できないか、と徹底的に考えたと思います。

 実は、当時の私は「ムーニーマン」の担当ではありませんでした。私はムーニーのテープタイプの担当でしたので、自分のお客さまがムーニーマンに移ってしまって売上が激減しました。ムーニーマンの生産設備のある工場と、私の担当するテープタイプの設備のある工場は別だったので、ある日工場長が私の顔を見るなり、『ちょっと来い!』と言って私をテープタイプの設備が停まってしまっている現場に連れて行かれて怒鳴られました。『これはなんとかしなければ』と焦り、自分でつくった新コンセプトを何度もお客さまにぶつけてみましたがすべてボロボロに言われます。「何を言っているか全然わかりません」、「こんなことを考えているメーカーがあるんですか」、「こんなもの誰も買わないと思いますよ」など、散々です。その度に私は、「まだまだ消費者のことを理解できていなかったな」と素直に反省し、アイデアをゼロから練り直します。そしてまた、いろいろなアイデアをお客さまにぶつけるのです。



 たくさんのアイデアをお客さまにぶつけることで、毎回まったく違う声が返ってきます。そのうち、このアイデアとこのアイデアの間に何かありそうだといった、新たな発想が生まれます。そのため、お客さまにボロボロに言われたとしても、とにかくアイデアをぶつけ、聞いてみることがとても大事です。「トライ&エラー」ではなく、「エラー&トライ」と、エラーが先行しているイメージですね(笑)。

 また、私はプロダクトアウトを完全否定しないということもポイントだと思います。コンセプトだけで商品はつくれません。開発者はお客さまを観察したり、声を聞いたりして何かを感じてその設計を考えているわけですから、そのひらめきはとても大切です。そのひらめきの根本にあるお客さまにとっての本当の価値を見つけて翻訳をする、ということも大切です。

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