変革のカギを握るCxOの挑戦 #11

ライフネット生命 森亮介氏は、苦しかった時期をどう乗り越えたか

 

保険の原点である「相互扶助」という価値を提供したい


石戸 今後、会社としてどのようなチャレンジをしていきますか。
  
今後チャレンジすることについて語る森氏

 大きくは2つあります。ひとつは、オンライン上のサービスであるという従来の流れを、より強固にしていくことです。私自身も日々の生活の中で、すべてオンラインで完結したいタイプの人間です。こういうタイプの人間が、当たり前のように好んで使う保険サービスにしていくことが大事だと思います。我々のサービスは、もともと若年層からの支持で始まりましたが、現在では50-60代など幅広い世代の人からも利用されています。そのため、これからは全世代に対して、サービスを届けられるようにしていきたいです。

もうひとつは、相互扶助です。我々は、保険というシステムが相互扶助であり、ユーザー同士の支え合いが原点だと考えています。しかし現在の生命保険は、ユーザーが保険会社を胴元だと捉え、そこと賭けをしているような考え方になっていると感じています。そのため、相互扶助という考え方に共感してもらえる活動にもチャレンジしていきたいです。

もともと生命保険は、素朴な仕組みでした。たとえば、村人が100人いたとして、その中の1人に思いがけない出来事があったときに備えて、みんなで少しずつお金を出し合って助け合おうという考え方です。これでは村の中で1人しかお金が戻ってこず、他の99人にとっては損かもしれません。しかし、明日は我が身と考えて、一人ひとりの負担額はわずかであるため許容できます。セーフティネットからこぼれる人が出ないようにする仕組みが保険なんです。

ただ、現在ではその規模が金融としてどんどんと大きくなっていったことで、救われている人が見えなくなってしまい、保険会社にしてやられているような感覚になってしまったと思います。もともと金融という言葉はお金の融通という意味であり、保険会社は単なる融通者のはずなんです。それが今では、胴元と考えられてしまっているので、保険の良さが感じられなくなっているのだと思います。

石戸 そうですね。「保険は損だ」、「加入してから意識が薄くなる」と捉えている人が多くいる気がします。

 そう思います。実際に、健康な人には時々、掛けた保険に対して損をしたと言われることがあります。ただ、そのお金は他に入院や手術をした人にしっかりと使われています。そのため、自分が掛けた保険に対して、他の人の役に立つことができて良かった、という本来の感覚を取り戻せるようにしたいと強く思います。それを実現できれば、もしかしたら広告宣伝をあまりしなくてもいいような、新たな提供価値につながっていくと思います。

さらに言えば、日本は、お客さまと丁寧にコミュニケーションをして、一人ひとりのニーズに合わせて、カスタマイズすることが良いサービスだと捉えられがちです。しかし、一人ひとりの細かいニーズは異なるけれど、共通している部分を取り出してユニバーサルなサービスにしていくことも大切だと思います。

私は良品計画さんの「これでいい」というコンセプトを尊敬していて、ライフネット生命も「これがいい」ではなく、「これでいい」と選ばれたいと思っています。私は、よくTwitterで自社をエゴサーチするのですが、「ライフネットでいっか」というツイートを頻繁に見つけるんです。このツイートは実はすごく嬉しいんです。
   
対談中の森氏(左)と石戸氏(右)

石戸 自分が掛けたお金の用途に対して、透明性を持たせることは難しいのでしょうか。

 いえ、もちろん可能です。実は現在でも開示してはいます。でも、その開示は投資家向けのフォーマットになっているため、エンドユーザーがあまり理解しにくくなってしまっていると思います。

我々には、お客さまから「手術はすごい大変でしたが、ライフネット生命の保険に加入していたおかげで、なんとか無事に手術を受けることができました、ありがとうございました」などの声が届いているんです。この声は、本来私たちが受け取るのではなく、保険に加入しているお客さまが受け取るべきメッセージです。この体験の設計は、まだまだ道半ばです。

石戸 なるほど、非常に興味深い話ですね。

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