国境は地図の上にない、心の中にある #05

先行メーカーが独占的シェアを持つタイ、元ユニ・チャーム 木村 氏はどう切り崩したのか。

 

タイでの営業組織づくりに悪戦苦闘


 新商品の導入と並行して、営業の組織づくりを行いました。そもそも私が赴任したときのタイ法人は、生理用ナプキンの製造を担い商品の販売は、すべて現地の販売代理店が行っていました。そこでブランドや売上向上のためにも、自分たちでゼロから営業部門を立ち上げる必要があったのです。

 新しく部門を立ち上げるには、人を採用して教育しなければなりません。ところが、営業人材の採用を始めたものの、誰ひとりとして門戸を叩いてくれる人はいませんでした。というのも、ユニ・チャームの商品は、その販売代理店の名前で売っていたので、現地では全くの無名ブランドだったのです。

 そのため、営業組織をつくろうにも、応募が来ないので面接すらできない状況でした。そのとき、ふと浮かんだのが、赴任前にタイ市場を視察したときに出会い、商談に強い姿勢で臨みながらも、とても好感度が高かった販売代理店の営業パーソンのことでした。ところがその人は、全く異なる業種に転職していました。そこで、彼にアポイントをとりユニ・チャームで働いてもらえないかと声をかけました。



 しかし、その人からは「ちょうど新しい会社で1年間の雇用契約を結んだタイミングで、転職はできない」と断られてしまいました。もう仕方がないので、その後なんとか採用できた経験の浅い営業担当と一緒にスーパーに出向きましたが、私自身も初めての海外赴任で英語もまともに話せず、商談の土俵に乗ることすらままならない状態でした。

 どうしても商談の窓口となる人がほしいという切実な願いから、断られた彼に3回アプローチをしました。「三顧之礼」という言葉がありますが、それが実現しました。粘り強く3回目にアプローチした時に「わかりました。では、契約が切れるタイミングで、そちらに転職します」と、営業責任者として入社してもらうことになりました。しかしまだ彼が来るまでには数ヶ月かかります。私は一旦販売契約を終了した販売代理店の社長に「3カ月だけ契約を伸ばしてくれないか」と頭を下げました。

 最初は「どのツラ下げてきた!?」という反応でしたが、「わかった。3カ月だけ待つので、その間に絶対に営業体制を整えてくれ。」と言ってもらい、得意先にもユニ・チャームの新しい営業を紹介するなど、引き継ぎまでしてもらいました。とにかく粘り強く真剣に説得し続ければ相手に思いが通じる。それが相手に一時期は不利なことだとしても、わかってくれる、と感じました。この代理店には別の販売網の強化を担当してもらい、その売上が伸びることで2年で元の売上に戻すことができました。その販売代理店には今でも感謝しており、タイでの印象的なエピソードのひとつとして覚えています。

※後半に続く
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