マーケターズ・ロード 富永朋信 #04

「ところで、その人の靴は舐めましたか」 僕が三枚目のデブキャラにシフトした理由 【イトーヨーカ堂 富永朋信】

ゲームクリエイターの故・飯野賢治さんとの出会い

 また、プロジェクトの推進は難航を極めた背景には、3社の理想や思惑が、それぞれ微妙に異なっていたこともありました。そのために、サーバーの仕様やモバイルサイトの機能といった要件定義ができなかったのです。

 「自販機と携帯を連動させたサービス」という概念しかない状態は、かなり厄介です。アイデアは次々と出てくるのですが、それを具体的なサービスとして描き出すことができずにいました。



 そんな折、伊藤忠商事のメンバーが連れてきたのが、ゲームクリエイターの故・飯野賢治さんでした。

 プロジェクトにおける飯野さんの功績は非常に大きかった。プロジェクトに合流した彼がまずつくってくれたのは、「未来の新聞記事」でした。新しい自販機のシステムを上梓して記者会見を行った結果、メディアにこんな記事が掲載された——という設定です。

 サービスの概要をわかりやすく伝えるこの架空の記事が、プロジェクトの大きなターニングポイントになりました。「僕らが目指すのはここなんだ」と、メンバー間でプロジェクトの方向性を共有できたのです。

 そして次に、飯野さんは自販機のデザインをつくってくれました。自販機メーカーに依頼して上がってきたデザインは、通常の自販機に携帯電話のオブジェがついているというもの。僕らは「これじゃない」と感じるものの、その違和感を説明することができずにいました。そんな中、飯野さんのデザインは秀逸でした。



 右半分が「ダイナミックリボン」(コカ・コーラのロゴ下にある白い波線)を模したデザインで、そこが白く光っている。飯野さんによると、その光っている状態が「携帯連動モード」とのことでした。

 思わず惚れ込んでしまうようなカッコいいデザインだったということ以上に、僕らがそれまで言語化できなかったモヤモヤが解消したということに、大きな意味がありました。

 僕らが自販機に実装しなければいけなかったのは「携帯連動モード」と「通常販売モード」を切り替えられる機能であり、携帯は自販機を操作するためのリモコンとして機能させる必要があるのだと整理することができました。

 自販機には「24時間止まらずに稼働する」「真夏や真冬の過酷な温度環境に耐える」といった条件があることに加え、飲料の保管・販売のための基本的な機能に大きなスペースを割かれるため「携帯連動モード」のための設備を実装するのに制約が大きい。

 そんな諸条件をクリアしながら、飯野さんのアイデアに基づく未来の自販機、そしてバックエンドシステムやモバイルサイトの開発を進めていきました。サービスを上梓したときの喜びは、いまでも忘れることができません。

<次回、「日本コカ・コーラを辞めて、小売企業のマーケターに価値を見出した理由」は、9月18日公開予定>
 
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日本コカ・コーラを辞めて、小売業のマーケターを志した理由【イトーヨーカ堂 富永朋信】
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