国境は地図の上にない、心の中にある #08

ユニ・チャームが10年でインド市場を黒字化させた攻略の秘訣とは

 

現地のインド人と良い関係性を築くには


 誕生日を祝ってもらい、感謝の気持ちが芽生える中で大切なことにも気づきました。たとえば、私たち日本人が海外赴任して現地法人を設立するとなると、現地のメンバーを採用し日本のノウハウを移転して鍛えなければと考えます。「日本の方が上だから教えてやろう」という無意識のうちに作ってしまう考えです。しかし、私はそんな考えやスタンスは、おこがましいと思うのです。

 海外赴任が決まった日本人に対して、いつもアドバイスすることがあります。それは「自分がなんとかしなければ」「日本のノウハウを移転するために行くんだ」という気概を持つことは間違っていないが、それだけでは大事な考え方が抜けているということです。たとえば、インドに赴任することになれば、私たちはインドという国から就労ビザをもらいます。これは見方を変えれば、インド人の仕事を日本人が奪っているということです。それでも現地で働くことを許してもらえるのは、私たちがインドという国への貢献を期待されているからです。そうであれば、私たちはインドという国への感謝の心を忘れず、その期待に応えたいという思いを持たなければいけません。

 さらに、なぜ日本人が現地でノウハウや技術を移転する立場になれるかといえば、それは純粋に日本が義務教育を徹底している国だからだと思います。そういった社会環境が整っている国にたまたま生まれたというだけなのです。

 赴任先の国に感謝し、現地の人を尊敬する。こういった気持ちを持てば、現地のメンバーとの接し方も対等になるはずです。

 それに、現地の消費者を本当の意味で理解するためには、現地の人となるべく同じ生活水準で暮らす必要があると思います。私は意識して現地の人と同じ食生活をするようにしていました。当時のインドには、そもそもスーパーマーケットがほとんどなく、生鮮食品は街の市場にしか売っていないため、必然的に現地と同じ食事になります。また、住まいは、少し綺麗な場所でしたが、30分に1回は停電が起きていました。

インド赴任時の木村氏

 現地の人と同じ生活に身を置かざるを得ない環境だったとはいえ、同じ生活をすることは日々の仕事にもプラスに働いたことは間違いありません。
 

ゼロからスタートを経験したインド


 インド赴任後は、住む環境を整えながら市場調査や資金調達、オフィス開設に動きました。そこで印象的だったのは、就労ビザがなかなか取れなかったことです。

 当時のインドでは、就労ビザを取るためには会社の登記が必要でした。そのためには銀行口座が必要になりますが、その開設には自分がインドに住んでいることの証明が必要になります。どこから手をつけたら良いかわからない状況でしたが、誕生日を祝ってくれた彼に聞きながら、なんとか就労ビザを取ることができました。

 本当に何もないゼロの状態からユニ・チャームのインド法人を立ち上げました。オフィスを借りて、人材コンサルティングに行き、我々にどのような人が必要でどのように採用をしたらよいかを聞くなど、すべて手探りで取り組みました。何もない状態から、スタートアップの立ち上げのような経験をさせてもらえたことは、非常に貴重だったと今でも感じています。

マーケターに役立つ最新情報をお知らせ

メールメールマガジン登録