国境は地図の上にない、心の中にある #08

ユニ・チャームが10年でインド市場を黒字化させた攻略の秘訣とは

 

赤字続きの10年間、なぜ乗り越えることができた


 インドでも、タイと同じように小さい店へ直接営業し、少しずつ販路を開拓していきました。資金がなく広告費も出せなかったので、私がインドに赴任していた期間はずっと赤字でした。

 当時のインドは外貨規制が非常に厳しく、ユニ・チャームの本社がインド法人にお金を貸すことは認められていませんでした。ローンを組もうとしても、インド国内の銀行から借り入れしなければならない状況です。その場合、10%の金利がかかってしまいます。赤字なのに高い金利で借りてしまえば、どんどん首が締まることは明白です。そんな中、唯一できることは、本社に資本金を増やしてもらうことでした。

 資本金を増額してもらうためには、本社の取締役の承認が必要です。半年ごとに中期計画をつくっては本社に持ち込んでいましたが、毎回「いつ黒字化するのか」と聞かれ、なかなか実現できず、まるでオオカミ少年のような心持ちでした。

 それでも10年間続けてこられたのは、高原豪久社長が「絶対にインド進出を成功させたい」と強い思いを持っていたからです。でも赤字からは脱却できません。一方で、インド市場でのユニ・チャームの存在感は徐々に上がり、売上と企業規模は成長し続けていたので、それも支えになりました。

 また、私たちに付いてきてくれる現地メンバーがいたことも励みになっていました。資金が不足していたため、彼ら・彼女らの給料はインドの平均に比べてとても安く、昇給率も低かったのですが、ユニ・チャームには「人を大事に育てる」という文化があったので、会社の成長を期待してくれてギリギリの状態で頑張ってくれていました。

 現地法人を設立してから10年目の決算で、ようやく単年での黒字化を発表できました。その年は、ちょうど私が日本に帰国した年のことでした。今、インドでの10年間を振り返って、一番大切だったのは「モチベーションの維持」だったと感じています。海外では日本と違い、信じられないようなことが毎日のように起こります。

 私はタイでの苦労が資産として蓄積されていたので、インドで起きたことも大体は理解できました。たとえば人が突然辞めたり、前回と同じ伝票なのに税関で物が止められたりといったことが日常茶飯事です。そういったトラブルに対して自分が行動して解決するためにもモチベーションが大切です。

 現地法人の社長のように組織を率いるリーダーは孤独です。そのため絶対に信頼の置ける人を1人は持つべきで、私にはたまたま信頼できるインド人がいました。日本人の私がわからない現地で起こっていることは、その人に相談していました。

 あとは、小さな成功を自分の中に蓄積することです。利益は出ていないかもしれないけど、売上は伸びているのであれば、それも小さな成功です。そのように仕事上のポジティブサインを自分のためにつくることが、頑張り続けるために重要だったと思います。
他の連載記事:
国境は地図の上にない、心の中にある の記事一覧

マーケターに役立つ最新情報をお知らせ

メールメールマガジン登録