変革のカギを握るCxOの挑戦 #16

オルビス小林琢磨社長が語る、マーケティング責任者に求める3つの力

 

「それはマーケティングがやることだ」という発言を禁止


石戸
 次のテーマに移ります。小林さんがマーケティング責任者に求める人物像の3つ目として挙げていた「組織づくり」について詳しく教えてください。

小林 私がオルビスに入社したときに実行したのは、それまであったマーケティングの部署をなくすことでした。なぜなら、マーケティングは経営の裾野の活動であり、ひとつの部署だけでなく、会社全体で取り組まないといけないと考えたからです。
  

そこで、マーケティングの業務を「ブランド戦略」や「新規顧客開発」などの役割に分けて各部門に割り振り、「それはマーケティング部門がやることだ」という発言を禁止しました。マーケティングは顧客の価値を生み出すことであり、広告や宣伝担当者だけの仕事ではありません。この組織編成は、私からのメッセージとして社内にも分かりやすかったと思います。

石戸 私は以前、広告会社などの支援側で働いき、いろいろなメーカーの人と話してきました。皆さん、社内の組織について「縦割りだ」とよく言っていましたね。やはり組織の在り方や意識が大きな課題だと思います。

小林 最悪なのはビルの「階」で部署を分けることです。たとえば、営業部が3階にあって、広告宣伝部が8階にあると、「3階のやつら」「8階のやつら」と言ってしまいます。あくまでも「お客さま」という主語で一緒に議論することを意識しています。

石戸 組織を大きく変えたとしても、「自分の仕事はマーケティングだ」「自分は営業だ」と固定観念で働いていた人は、どうしても「他の領域に口を出していいのか」と迷ってしまう部分もあると思います。そこは実際にどうでしたか。
  

小林 心理的安全性の話にも通じますし、そこは簡単ではありません。当社では、他の部署に口を出すことを「仕組み化」しました。たとえば、マーケティング推進会議のような場で、他の部署に対して必ず改善提案をしなければいけないと仕組み化したのです。そうしないと、特に大きな会社の場合は難しいと思います。その結果、口を出す側も出される側もその環境に少しずつ慣れてきます。

石戸 意識を変えるための仕組みをつくる、ということですね。

小林 そうです。みんな自分の仕事で手一杯になっているので、「なぜこれをやらないんですか」と他部署から自分が気付いていなかった視点をもらうのは、とても価値があるのです。

たとえば、新規顧客を獲得するチームと既存顧客を担当するチームがあったとします。お客さまのLTVと相関が大きいのは、F2転換率(初回購入者が2回目の購入をした割合)です。F2転換を目指す既存顧客チームが必死に取り組んでも転換率が上がらないときに、新規顧客チームの業務も理解していれば、「新規顧客の獲得方法に問題があるのではないか」と気づけます。マーケティング全体の議論のレベルを上げるためには、担当業務を超えた議論が重要です。
  

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