変革のカギを握るCxOの挑戦 #16

オルビス小林琢磨社長が語る、マーケティング責任者に求める3つの力

 

「たっくん」と呼ばれるまでお客さまと距離を縮める


石戸 今回のネプラス・ユーでは「現場力」がテーマです。最後は「マーケティング現場力」について、少し踏み込んで聞いていきたいと思います。マーケティングの現場に求めることを教えていただけますか。
  

小林 マーケティングの現場に求めることが、マーケティング責任者に求めることにあたり、それは大きく4つあります。ひとつ目は顧客に会うことで、これは先ほどお話しした通りです。2つ目は、ブームに踊らされないことです。マーケティングにはトレンドがあり、横文字のバズワードが次々に出てきます。

私自身も「データドリブンマーケティング」のブームに踊らされた経験があります。社内ベンチャーで立ち上げた会社はSKU(品目数)が25くらいでしたが、オルビスではSKUが1000を超え、売上規模や顧客数もまったく違いました。データが豊富にあったので「宝の山だ」と思い込み、延々とデータ分析をしていました。しかし、よく考えたら「顧客はいったい誰なのか」という重要な議論をしていませんでした。そのとき、データの相関性を見つけて仕事をした気になるのは危険だと気づきました。

仮に属性と購買情報に相関関係があったとしても、属性から顧客が購入した理由は特定できません。データは因果関係の証明にはならず、「なぜお客さまが買ってくれたか」という議論がすっぽり抜けています。まずは、顧客解像度を上げることが大事です。

3つ目は、Web広告の管理画面を自分でも見ることです。広告会社が出してくれるレポートに対して意見や要望を言うだけでなく、自分で分析して投資判断できないといけません。私はベンチャーにいたときも管理画面を自分で確認し、広告会社と一緒に議論していました。自分で管理画面を見てPDCAを回し、その上でリソースを借りるために広告会社とお付き合いさせてもらう。その姿勢が大切だと思います。
  

石戸 いまの時代に非常に重要なことだと思います。私は広告会社やGoogleにいたころ、何百社もの広告主と話してきて、「レポートが遅い」「なんでこの数字が変わったのか」と、強く言われることがありました。何度か管理画面の見方を教えたこともあり、そういう企業とは一緒に議論ができる関係を築けました。しかし、そのように同じ目線で仕事ができる広告主は、ほとんどいなかったですね。

小林 4つ目のポイントは、組織編成です。広告の業務の話になりますが、当社は自社で内製するインハウスと広告会社に依頼する広告の割合を50対50にしています。たとえば、月間の新規顧客が4万人だとすると、2万人はインハウスの広告で獲得し、残りの2万人は広告会社経由で獲得します。私がオルビスに入ったときは100%広告会社に任せていましたが、徐々にインハウスの割合を増やした組織づくりをしました。つまり、自分たちで管理画面を見て広告を回せるスキルをつけながら、半分は広告会社と一緒に取り組むという組織づくりをしたのです。

石戸 最近は広告主から「インハウスを検討し始めている」という話を聞きますね。50対50がちょうどよいのでしょうか。
  

小林 はい、すべてをインハウスにしようとは思いません。広告会社はさまざまな会社とお付き合いしていて、多くの情報を持っているからです。

石戸 最後に、直接お客さまと会うという話で出てきたお客さまイベントについて詳しく教えてください。

小林 先ほども話したように、経営陣の参加は必須にしています。常に経営陣がロイヤル顧客とコミュニケーションを取っている状態をつくり、お客さまと近い関係を構築しています。

たとえば、執行役員の元木正城は、新卒でオルビスに入社して25年ほど働いています。お客さまから愛されていて、「もっくん」というニックネームで呼ばれています。イベントで彼が登壇すると、多くのお客さまから「もっくん」と声をかけてもらえるのです。それがうらやましくて、お客様に「私もニックネームを付けてほしい」とお願いしたところ、「たっくん」になりました。それ以来、「たっくん」と呼ばれています(笑)。

このような距離感を築いているのは、お客さまの本音を聞きたいからです。顧客インタビューなどの場では、答える側はどうしても構えてしまいます。日頃から近い距離感をつくっておけば、座談会でも本当の話が出てきやすくなります。顧客解像度を上げるために、経営陣こそお客さまとの距離を縮めて、メンバーを巻き込んでいくことが重要だと思います。

石戸 本日は、いろいろなお話を踏み込んでしていただきました。ありがとうございました。
  
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