国境は地図の上にない、心の中にある #12

ユニ・チャームの退職後、ペットビジネスに大きな可能性を感じた背景

 

動物病院が必要とするマーケティング


 私は最初の面談で奥田代表に「なぜ動物病院にマーケティングが必要だと思うのですか?」と質問しました。すると、彼は「一番大事なことは、飼い主の満足です」と言いました。病気であれば、病気だけを直せばいい、怪我であれば、怪我だけを直せばいいという発想ではなく、飼い主が「この病院に来てよかった」と心から感じ、また何かあったときに来たいと思うかどうかが重要だと言います。

 ところが現在の動物病院の多くは、残念ながら、その手前の段階で止まっています。「この子はこういう病気なので治しましょう」「薬を処方するので1週間後にまた来てください」と診察して終わりで、サービス精神がないと考えていたのです。

 一部の病院では、トリミングやトレーニングまで行う複合的なペット専用施設もありますが、全体としてのサービス設計は不十分です。人とペットが幸せに暮らすためには動物病院も顧客満足度を上げる努力が必要なのです。奥田代表が、「その実現こそがマーケティングだ」と答えたときに、私も確かにそうかもしれない、ユニ・チャーム時代にはなかった新しい視点を持つことができそうだと思いました。

 そして早速、私は動物病院やクリニック領域において顧客がどのようなことを求めているのか、人とペットの出会いからお別れまでがどのような設計になっているのか、カスタマージャーニーをつくってみました。
 
 そうすると、ペットとの出会いの瞬間から最期のお別れまでのライフタイムにおいて飼い主の幸福度が上がったり、下がったりしていることに気づきました。たとえば、ペットが病気になったときは幸福度が下がり、獣医師に診察してもらってペットの病気が回復すると幸福度が上がるというわけです。つまり、獣医師のサービスは、飼い主が抱えるマイナスをゼロにする活動なのです。さらに、そこにプラスアルファの価値を提供できれば、より幸せを生む可能性があると、奥田代表と話しました。

 この考えは、動物病院のマーケティングだけではなく、他の領域でも応用できると思います。商品・サービスが世の中に溢れた時代にはマイナスをゼロにするだけではなく、付加価値をどれだけつくることができるかが重要です。

 たとえば、日本で独身で犬を飼っている場合、仕事に行っている間はどこかに犬を預けたいというニーズがあります。子どもを保育園に通わせるのと同じ理屈で、出勤前に犬を預けて、仕事が終わったら迎えに行くというサービスを求めているのです。

 そこでオープンしたのが、ペット向けメディカルサロン「Dyplus(ディプラス)西麻布」です。ここでは、ペットの未病・予防のためのメディカルチェックやメタボ体質の改善、健康な体づくりなど、ヘルスケアとライフスタイルの両面から飼い主とペットの健康的な暮らしをサポートしています。具体的なサービスとしては、クリニックやトリミング、日中の預かりも含めたホテル、犬の学校など、ペットが楽しく過ごせるサービスを提供しています。
  
Dyplus(ディプラス)西麻布での様子

 最近、Dyplus西麻布をさらにサービス拡大した施設として、大阪の環状線桃谷駅と天満駅近くに200坪の室内ドッグランを持つ「Green Field TENNOJI(グリーンフィールド天王寺)」と、「Dyplus OSAKA KITA(ディプラス大阪北)」をオープンしました。ぜひ一度遊びに来てください。

 日本ではペットの高齢化問題が浮上しています。ペットも長寿化による高齢化が起こっており、人間同様に犬も年を重ねるごとに体調が悪くなったり、歩けなくなったりするので、リハビリテーションが必要です。実際、Dyplus西麻布で後ろ足が動かない犬にマッサージや遠赤外線治療を行ったところ、歩けるようになったというケースもあります。そのため、今後はトレーニングや栄養指導といったサービスも拡大していく予定です。
  
Dyplus OSAKA KITA(ディプラス大阪北)
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