国境は地図の上にない、心の中にある #13

元ユニ・チャームグローバルマーケティング本部長の木村幸広氏が語る、今のマーケターに伝えたいこと

 

顧客の心やインサイトを忘れないでほしい


 私は幸か不幸か、デジタルの前にアナログを強く経験している世代です。インドに赴任した2008年は日本でiPhoneが発売されたエポックメイキングの年でした。それ以降、急激にデジタルマーケティングが進化し、顧客との接点がいつも手元にある状態になりました。

 私からデジタルネイティブ世代に伝えたいことは、定量的なものの裏にある顧客の定性的な「心」や「インサイト」を忘れないでほしいということです。ともすると、より多くの人に広告を当てるためにはどうしたらいいか、購入につなげるためにはどうしたらいいかなど、定量的な数字ばかりを考えてしまいます。昭和の精神論に聞こえてしまうかもしれませんが、データの裏には必ず「消費者」がいるということを忘れないでほしいです。

 コトラーはかつて、本来マーケティングはOne to Oneであるべきで、消費者の顔を見て丁寧にマーケティングをしていくことが重要だと言いました。多くの人を相手にするマスマーケティングとは違い、デジタル技術が発展したことによって本来やるべきだったOne to Oneマーケティングが可能になったと考えるべきだといっています。

 ひとりの消費者であっても、「母」「妻」「主婦」など、その人がもつ顔はその時々で変わり、それによってニーズも変わります。いくつもの顔をもつ消費者を丁寧に見ながら、どのように関係を育んでいくのか、どうしたら満足してもらえるのかなどに対応していくことがマーケティングの根本です。デジタルはそれを助けてくれるツールだということを忘れないでください。

 長年マーケティングに関わってきましたが、お客さまが喜んでくださることが私にとっての幸せであることに変わりはありません。これからも、そう感じられる仕事を続けていきたいと思っています。
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