国境は地図の上にない、心の中にある #14

グローバルマーケティングの実態、アジア市場への挑戦に必要なパーパス【A’ALDA(アルダ)CEO 奥田昌道】

 

インドで動物病院を始めた3つの理由


木村 アルダは日本の他に、インドとベトナムにも病院をもっています。特にインドでは、2024年5月現在で4つの病院を開院しています。インドに事業展開した背景をお話しいただけますか。
 
アルダ CMO
木村 幸広 氏

 元ユニ・チャーム常務執行役員グローバルマーケティング本部長。 マーケティングアシスタント、ブランドマネージャー、マーケティングディレクターを経て31年間ユニ・チャームのマーケティングに従事。途中タイ約6年、インド約10年の海外駐在。インドではユニ・チャームのインド法人をゼロから立ち上げ。現在、コンサルティングの木村グローバルマーケティング代表。国内外で40以上の動物病院を経営するアルダ株式会社でCMOも務める。

奥田 当時はまだPECOの子会社で。PECOの全社戦略でインド進出が決まりましたが、同社の主力事業はWebメディアでしたからインドでも同じ事業を展開する予定だったのです。

しかし、日本でコンテンツを制作し、インド市場に投下して広告で稼ぐのではROI(Return on Investment=投資収益率)が合わなかった。また、私自身がもう少しリアリティのある事業に取り組みたかったので、インドでは動物病院を行うと決めました。

最終的にインドに進出すると意思決定をした決め手は3つあります。ひとつはインドの熱量。残念ながら日本は現状、それほど経済成長を遂げていませんがインドは違う。日本では絶対に感じることができない熱狂感やカオスな空気感を感じることができました。

2つ目はインドに身を置いたほうが成長すると考えたことです。インドの若手起業家は話をすると、リスクという池があったら喜んで飛び込むような人ばかりいます。インドの経済はどんどんよくなっていくので、失敗することをリスクと捉えていない人が多い場所なのだなと感じました。

3つ目は世界一の人口で、いまも経済成長をし続けていることです。米国や中国では一定程度の寡占化が進んだと思いますが、インドはまだ未完成な場所でラストフロンティアだと思っています。グローバルで10年20年と腰を据えて戦うのであれば、インドは避けて通れない場所だと思いました。

ただ、もちろん苦労もたくさんあります。英語でコミュニケーションしていますが、ひとつの言葉が含む機能性や社会的な意味合いがまったく異なることがあり、5年経ってようやく7割ほど理解できるようになったと感じています。

木村 国境を越えたときには、考え方や言葉の共通認識を持つという点で非常に苦労しますよね。私もインドでの経験が長かったので、奥田さんの気持ちは非常に共感できます。インドで動物病院の事業を立ち上げるうえで、獣医不足もひとつの懸念点だったかと思いますが、その点についてはいかがでしょうか。

奥田 正確に言うと、アジア地域全体で獣医師の数が不足しています。ペットの数が増える速度が、獣医師が増える速度よりも速いのです。これは日本を含むアジアや米国など、世界全体にいえる傾向です。

そもそも、インドの獣医師は大きく2つに分けられます。ひとつは酪農のような牛や馬や羊など大動物を診る、公務員のような医師です。もうひとつは、犬や猫やウサギのような小動物を診る、いわゆるプライベートクリニックの医師です。日本では半々くらいの割合でいますが、国家として畜産業に注力しているインドでは95%が大動物を診る獣医師で、小動物の獣医師は5%しかいないのが現状です。(※1)

近年のインドは経済発展を遂げ、高所得者を中心に今後もペットの飼育数が増え続けることは明らかです。一方、獣医師ひとりあたりのペット診療数は日本の10倍にも膨らむと予測されており、増加の一途を辿るペットの健康管理をする場はまったく整備されていません。この状況を受けて、アルダはインドのグルガオンという都市でゼロから土地を取得し、ペットホテル兼サロン「DCC Petcare」を建てたのです。

※1:インドの動物医療の現在と、A’aldaが取り組む動物病院のDX

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