国境は地図の上にない、心の中にある #14

グローバルマーケティングの実態、アジア市場への挑戦に必要なパーパス【A’ALDA(アルダ)CEO 奥田昌道】

 

「Pet to Partner」をパーパスに、ライフスタイルとヘルスケアの負を解消する


木村 獣医師が圧倒的に不足しており、今後もペットとして飼育される動物の数が増えていく状況なので、そこに社会課題と事業のチャンスがありますね。次は日本の獣医療についてです。日本の獣医療のどこに課題があるのか、飼い主の困りごとはどこにあるのか、お聞かせください。

奥田 日本の動物病院では、85%の動物病院は獣医1~2人程度で運営され、かつこれは体感ですが70%ほどの動物病院が紙でカルテを管理しています。情報が断片化され、デジタル化も遅れていますが、飼い主の目線で見たときには大きな課題はないともいえます。なぜなら、動物病院の役割は「飼い主の不安を解消すること」だから。ペットが怪我をしたときにも、高水準の日本の獣医療であれば治療することができます。こういった側面からは、断片化やデジタル化の遅れはさほど大きな問題にはなりません。

一方で、AI時代において、この遅れは日本の獣医療業界にとって大きな課題となります。今後、AIを使って未病(健康から病気へと向かっている状態)予防の時代が来るでしょう。しかし、日本のペット医療においては、データをもとに判断するために必要なデータ集積のための装置がまったく存在していないのです。

そこでアルダでは、動物病院の他に、「Dyplus」というデータを軸に据えた事業を展開し、データを中心にした取り組みを進めています。ここは、未病・予防のためのメディカルチェック、メタボ体質の改善、健康な体づくりなど、ヘルスケアとライフスタイルの両面から飼い主とペットの健康的な暮らしをサポートするための施設です。

現状、人に依存している判断に、データ群をしっかりと当て込むことで、飼い主に対して垂直統合したサービスを提示できるよう、グループ全体でデジタル化を実施していきたいと思っています。そうすることが、顧客満足度の最大化の実現にもつながります。
  
Dyplus(ディプラス)西麻布での様子

顧客満足度の最大化、それは我々がパーパスとして掲げる「Pet to Partner」と繋がる部分もあります。このパーパスには「人とペットが幸せに暮らせる社会を創る」という意味合いがあります。アルダでは、ペットと一緒に過ごしている時間の幸福度を最大化することを目指しているのです。

ペットと一緒に過ごす上で幸福度を上下させる要因には、ライフスタイルとヘルスケアの2種類があります。ライフスタイルにおける幸福度では、たとえば、ペットと一緒に暮らし始めたときは幸せでも、引越しの時にはペット不可の家が多く、賃貸住宅を探すのが大変で幸福度が低下しやすいという側面があります。

一方でヘルスケアにおいては、ペットの健康状態が悪化したり亡くなったりすると、幸福度は下がるでしょう。そこで、飼い主の幸福度を下げる要因やギャップを埋めていくことが、いま我々にできる大きなミッションだと思っています。

いろいろなデータを溜め込むことで、ゆりかごから墓場まで、あらゆるサービスをデータドリブンで提供していきたいですね。これが、我々の考えるペット業界の課題とそれに対するソリューションです。

木村 「Dyplus」は、ただ単に病気を治すだけではなく、健康の維持増進も目指す取り組みですよね。顧客満足度を最大化するために大切にされていることや、実際に行われていることはありますか。

奥田 2つあります。ひとつ目はサービス業として顧客満足度を上げていく点です。ホームページの見やすさなどデジタル上の顧客接点も考慮し整備を行います。実店舗での挨拶の徹底、お客さまのペットの名前を覚える気配りなどのほか、待ち時間を減らすことや、会計のキャッシュレス化などにも取り組んでいます。

2点目は、顧客である飼い主の不安をゼロにすることです。難しい医療の専門用語を使わないこと、顧客目線に立って提案をすることはもちろんです。たとえば、お客さまの予算を超えた治療方針を提案したり、逆に予算がある人にあえて様子を見ましょうとだけ提案したりしたら、満足度が下がると思います。お客さまそれぞれに合った最適な提案をするために、デジタルインフラを整えデータドリブンで判断していこうとしています。

結局、顧客満足度を最大化するときは、個人的に顧客満足度をNPSやマーケティングのフレームワークを活用して測るよりも、お客さまがどんどんと店舗やサービスなどにお金と時間を使っていただけること自体が満足につながると考えています。

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