探訪!大学マーケティングゼミの現在地 #01

【早稲田大・守口剛ゼミ】 明確な目標と怒涛のフィードバックが最高のアウトプットを生み出す

 企業におけるマーケティングの重要性が増す中、入社時点で既にマーケティングの理論やケーススタディを学んでいる優秀な学生には、企業からも熱視線が注がれる。一方で、学生の進路への考え方も多様化しており、マーケティングを学んでいるからといって、そのままマーケティング職に就くわけではない。今の学生はマーケゼミに何を期待し、何を学んでいるのだろうか。Agenda noteの新連載は、キャンパスを舞台に活発なマーケティング研究を展開するゼミナールを探訪。ゼミ生の活動を観察することで、彼らの関心事項やマーケティングゼミの現在地を探っていく。

 第1回は、早稲田大学商学部の「守口ゼミ」。関東学生マーケティング大会(以下「関マケ」)で毎年、上位入賞する強豪として知られる名門ゼミだ。マーケティング・サイエンスや消費者行動論の研究者として著名な守口剛教授の指導のもと、関マケ入賞に向けて熱いプレゼンと滝行のようなフィードバックが繰り広げられる講義室にお邪魔した。
 

全ては「関マケ」に向けて


「関マケは」「関マケに向けて」「関マケが」。彼らにとってはオリンピックのようなものだろうか。7月中旬に訪問した守口ゼミは「関マケ」、すなわち関東学生マーケティング大会への情熱であふれていた。

 同大会はマーケティングを学ぶ学生が主体となって運営し、日本マーケティング協会や有名企業がサポートしている。毎年、時代を象徴するテーマが設定され(昨年度は「〝きずく〟マーケティング」)、実務家などによる論文・プレゼン審査を経て、入賞チームが決まる。守口ゼミは上位入賞の常連で、昨年度は総合賞1位、プレゼン賞2位など、出場した4班全てが入賞する快挙を成し遂げた。関マケは守口ゼミ最大の目標であり、3年生の活動の中心だ。

 ゼミ生は3年生22人と4年生21人からなる43人(合宿など一部活動は2年生も参加)。3年生になって最初の一大イベントとなる「インターゼミナール」(通称「インゼミ」)は、企業から出される課題を他大学と合同で研究し、解決のための施策を考え発表する活動。今年はカゴメから出題された「日本の消費者の野菜摂取量を増やす」という課題に取り組んだ。3年生はこの経験を経て、秋に開催される関マケの入賞を目指して約5カ月間、全力投球することになる。
 
守口 剛 氏
 早稲田大学商学学術院教授。立教大学を経て2005年より現職。東京工業大学大学院博士課程修了、博士(工学)。最近の研究テーマは、オンラインとオフラインの双方における消費者購買行動の分析、感覚マーケティングなど。

 取材日はちょうど、関マケで発表するテーマについて初期構想を全体で発表し合う「関マケ構想発表会」だった。直前にインゼミを終えたばかりの3年生たちは、わずか10日程度の間に関マケの全体テーマ「〝すくう〟マーケティング」に対して各班で構想を練り、パワーポイントにまとめてプレゼンするというハードなタスクをこなしていた。
  
構想発表する3年生たち

 関マケは、論文審査やプレゼン審査における評価項目が次のように決まっている。
 
① テーマ…着眼点が面白いかどうか
② 仮説(リサーチ・クエスチョン)…解明されていない独自の問題を見つけ出し、適切な課題設定がなされているかどうか
③ 分析・検証(既存研究)…必要なデータ収集や分析、丁寧な論理的考察ができているかどうか
④ 新規提案…実用性・汎用性・独創性・利用価値のある提案ができているかどうか
⑤ 論文全体…分かりやすく論理的かどうか。大会テーマに沿っているかどうか
参考:2023年度関東学生マーケティング大会

 初期構想の発表会である今回は、主に項目①~③の概要が提案された。各班が提案したテーマやキーワードには、以下のようなものがあった(1班で複数のテーマを立案)。
 
  • 良識からの逸脱を促すようなキャッチコピー
  • 無意識下の衝動買い・パルス消費
  • 没入型コンテンツ
  • 天候変化
  • ダイナミックプラインシング
  • キャッシュレス決済
  • 返品交換システム
  • コントラフリーローディング効果
etc

 これらが消費者の購買行動にどんな影響を与えるかというのが、おもなリサーチクエスションだ。各班は自分たちで考えたこれらのテーマ案に対して、先行研究や実例を踏まえ、テーマの斬新さと利用価値にも言及しながら、消費者アンケートや店舗実験といった具体的な検証方法や、最終的な施策提案につなげるための道筋について、展望を述べていった。

 班によっては、抽象的な大会テーマについて「見落としがちな独自の人々のニーズを〝掬い〟出し、日本の未来を〝救う〟ことができるようなマーケティング」と分析したり、そもそものテーマ設定から複数の手法で検討したりしている班もあった。短期間で練り上げたとは思えない構想の充実ぶりとプレゼンの完成度。守口ゼミ生のポテンシャルの高さがうかがえた。

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