探訪!大学マーケティングゼミの現在地 #01
【早稲田大・守口剛ゼミ】 明確な目標と怒涛のフィードバックが最高のアウトプットを生み出す
怒涛のフィードバック
しかし、ゼミの真価が現れたのはむしろ、3年生のプレゼンが終わった後だった。先輩である4年生たちから、怒涛のフィードバックをお見舞いされるのだ。
「良識は人によって定義づけが違い、逸脱にも程度の差がある」
「背徳消費的なテーマは商材が食品に限定されがち。関マケの審査員は幅広い業界の実務家が集まるので、商材を広げられたら」
「没入型とは何か。用語の定義が必要」
「没入型コンテンツを再現する実験は自分たちで実現可能か」
「被験者の記憶に残るかどうか=リピート率の向上、ではない」
「消費者と企業にとってどういうメリットがある研究なのか」
「出た変数に対して企業はコントロール可能なのか」
「ダイナミックプライシングは検証できる商材が限られている」
「結論が面白くなるか」…
4年生は昨年の関マケを経験し、上位入賞に貢献した猛者たち。関マケの審査員の顔ぶれや評価基準についても、自分たちの経験や、過去のゼミ生から受け継がれた蓄積がある。それらを踏まえて、テーマの選び方から先行研究の調べ方、実験の実現可能性、結論の汎用性まで、鋭い指摘を次々と後輩にぶつけていった。
特に、複数の4年生から挙がったのが「トレンドを追うだけじゃなく、自分の肌感覚を大事にしてみて」というアドバイスだ。ニュースやSNSで話題になっているキーワードやコンテンツから掘り下げていくのも研究手法のひとつだが、自分たちが日常の中で疑問に思うこと、気になることを大事にしてほしい、という趣旨。人々の日常における行動変容を促すことがマーケティングの主要な役割のひとつであることを鑑みれば、的確な指摘と言えよう。「長丁場の研究になるので、自分たちにとって面白い研究であることも大事」というアドバイスもあった。
4年生のフィードバックを聞いていた守口教授も、司会から促されると、より俯瞰的な視点から、柔らかな口調で畳み掛けていく。
「没入型コンテンツの『没入』は恐らく体験型で、ドラマや本に没頭するという一般的な意味の『没入』とは違う。言葉の定義を明らかにした上で比較の視点があるといい。ただ、体験して没入することがリピート率につながるかどうかを証明するには吟味が必要」
「パルス消費はスマホを使った新しい購買の概念として面白いが、消費者実験で『今から衝動買いしてください』というのは難しく、焦点の絞り込みが必要」
「良識からの逸脱を促すようなキャッチコピーの効果は、たとえば昼なのか夜なのかでも変わってくる。時・場所・状況の違いを絡めて比較するのは面白いかもしれない」
「返品交換システムの有無が消費に与える影響については、システムのヘビーユーザーの声を聞くことができれば、とっかかりになり得る。システム利用者が多い米国との比較など、新しさやキャッチーさがあるといい」
守口教授が強調したのが「入口は狭く、出口は広く」という〝扇形〟の考え方。大会テーマが抽象的なこともあって、学生たちも壮大で抽象的な課題設定をしがちだが、テーマは出来るだけ絞り込んだ上で、幅広い業種や商材に応用可能な施策を提案することがポイントだと指導した。
先輩や教授から、厳しくも建設的なフィードバックの連打を受けた3年生。いわば「ボコボコ」の状態だが、悲壮感はない。ここから幾度もの議論や夏合宿での中間発表、実験やアンケートといった検証と結果の分析を経て、10月の論文提出に向けて発表内容を磨き上げていくという。