探訪!大学マーケティングゼミの現在地 #01

【早稲田大・守口剛ゼミ】 明確な目標と怒涛のフィードバックが最高のアウトプットを生み出す

 

成果を生み出すエコシステム


 メンバーはどんな点に魅力を感じて守口ゼミに参加しているのか。休憩時間に数人に聞いてみた。

 3年生の手塚亮汰さんは「アウトプットの多さ」に比重を置く。「大学の授業は比較的インプットが多いですが、インゼミや関マケといった明確なアウトプットの場があって、学んだことを生かせることに魅力を感じています」

 同じく3年生の安達心愛さんの将来の夢は「エンタメや音楽に携わること」。マーケティングやデータサイエンスとの関わりについては「音楽の良し悪しを感覚だけじゃなく、数値や論理で説明できる人材になれれば、新しいエンタメを生み出すのにも役立つんじゃないかと思いました」とのことだった。

 4年生の山田歩生さんの場合は「一言で言えば熱くなりたかった」。高校卒業までサッカーで全国大会を目指していたという山田さんは大学入学後、コロナ禍で没頭できるものが見つかりにくく、モヤモヤしたという。「そんな時に守口ゼミの説明会に参加して、関マケという大会に向けてチームで大きなものをつくり上げていくことに惹かれました」。面接を経てゼミに入り、幹事長を務めた。「おかげで一生モノの仲間ができました」

 インゼミや関マケという、他大学や企業と交流する機会を持ちながら、チームで構想をまとめ、データ分析や論理的思考を駆使して説得力のある結論を導き出し、論文やプレゼンというアウトプットに落とし込んで入賞を目指すという、一連のゼミ活動に魅力を感じて入会する人が多いようだ。

 守口教授も、学生が外部に向けて発表する機会を持つことに、大きな教育効果を感じている。だからこそ、2005年に早稲田大に移る前の立教大時代から、関マケの前身となる大会にもゼミ生を出場させてきた。

 もちろん、アウトプットのためにはインプットが不可欠だ。守口ゼミでは特に春学期の期間中、データ分析で活用できるさまざまな手法を集中的に学ぶ。そのほか、顧客や企業の視点、何気ない日常に隠れたマーケティング戦略への気づきを促し、世の中の動きやトレンドを多面的に観察することを意識させる。チームを編成することで、意見のぶつかり合いを乗り越え、繰り返し発表の機会を設けることで、聴衆に訴えかける表現力やプレゼン力を磨いていく。

「学んだことをアウトプットする機会があるかどうかで、吸収力は格段に違ってきます。大会出場を通して学びを深め、将来、社会人として活躍できる土台づくりができます」(守口教授)

 実際、ゼミ生から企業のマーケティング人材の枠で採用される人も多いという。

「特に近年は消費財メーカーやコンサルティング系企業において、マーケティング専門人材の獲得や早期育成の動きが広がっていると感じます。マーケティングを専門職として認識する企業が増えているのでしょう。 一方で、ゼミ生の進路は多彩で、必ずしもマーケティング職に進む人ばかりではありません。どんな道に進もうと、マーケティングの考え方やゼミで成し遂げた経験は役立つはずです」

 この日、守口ゼミの発表会は3時間に及び、4班全てのプレゼンとフィードバックが終わった頃には、講義室内に熱気と心地よい疲労感が充満していた。今後、4年生は自身の卒論研究を進めながら、メンターとして各班の後輩たちをサポートしていく。

 先輩から後輩へと、脈々と受け継がれてきた情熱と知見は、守口ゼミをマーケティング研究の強豪に育て上げ、学生たちにかけがえのない成功体験を与えてきた。

「この循環は、私が意図してつくり上げたというより、学生たちが熱心に後輩を指導してきた結果、気づいたら組織文化のようになったという感覚です。僕がお尻を叩いたわけではないし、いきなり再現してと言われても難しいでしょう」

 優秀な次世代を生み出すエコシステムは一朝一夕ではできない。結果につながる企業文化の醸成において、守口ゼミのありようは参考になるかもしれない。
  
守口教授(右から3人目)とゼミ生(一部)
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