新刊情報
【音部大輔氏 新刊発売記念インタビュー】君は「戦略」の本当の立て方を知っていますか?
2024/11/22
P&Gのマーケティング・ディレクターを経て、ユニリーバ、日産自動車、資生堂など数々の企業でマーケティング組織改革を実行してきたクー・マーケティング・カンパニーの音部大輔氏の最新刊『君は戦略を立てることができるか 視点と考え方を実感する4時間 』(宣伝会議)が、2024年12月19日に発売される。
Agenda noteは発売に先立ち、音部氏に著者インタビューを実施。2017年に出版した初の著書『なぜ「戦略」で差がつくのか。 戦略思考でマーケティングは強くなる』(同)から7年を経て、あらためて「戦略」に焦点を当てたのはなぜなのか。「戦略」という言葉に潜むリスクと定義、そして戦略構築のステップとは。12月16日に開催される1日集中講座「音部大輔のマーケティング『戦略』講座 」(ナノベーション主催)など、人気の研修との違いを含め、本書執筆の狙いを聞いた。
Agenda noteは発売に先立ち、音部氏に著者インタビューを実施。2017年に出版した初の著書『なぜ「戦略」で差がつくのか。 戦略思考でマーケティングは強くなる』(同)から7年を経て、あらためて「戦略」に焦点を当てたのはなぜなのか。「戦略」という言葉に潜むリスクと定義、そして戦略構築のステップとは。12月16日に開催される1日集中講座「音部大輔のマーケティング『戦略』講座 」(ナノベーション主催)など、人気の研修との違いを含め、本書執筆の狙いを聞いた。
―― 本書は2017年刊行の『なぜ「戦略」で差がつくのか。』を基にしているとのことですが、あらためて「戦略」をテーマにされたのはなぜでしょうか。前回との違いや狙いを教えてください。
2冊とも起点となる問題意識は同じです。マーケティングにおいて日常的に使われる「戦略」とは何か。その構成要素と、良い戦略と良くない戦略の差は何でつくのか、ということを解説しています。執筆の背景には「戦略」という言葉の曖昧さがあり、辞書を引いてもはっきり分かりません。「長期的な」とか「意図的な」という意味で使われることもあるようですが、「戦略」という言葉以外には置き換えられない意味があるはずで、マーケティングにおける「戦略」の意味を明らかにし、定義付けようというのが出発点です。
さかのぼると、私がP&Gのマーケティング・ディレクターをしていた頃に、ブランドマネージャーになる人々のための実践的なノウハウ講座の位置付けで、フライデーナイトセッションと銘打って自発的に研修していた内容に基づいています。つまり、「戦略」が「目的達成のための資源利用の指針」という考え方の原型は、ずっと前から確立していたわけです。
それがなぜ書籍化までに20年以上もかかったかというと、ロジックで捻り出したこの「定義」が果たして現実に通用するのか、例外はないのかを、網羅的に探索し続けたからです。その結果、ほとんどの場合、この定義付けが真であると考えて支障ないことが分かったので、2017年に初めての書籍化に至りました。
世の中に「マーケティング戦略」の本はあふれていますが、定義付けを試みた本はあまり無かったと思います。その意味で、長年の探索を経て演繹的に正しさが証明された「戦略」を明確にした『なぜ「戦略」で差がつくのか。』は、意義ある本だったと自負しています。
ただ一方で、実務上の「戦略」を求める読者からすると、定義の正しさはあまり重要ではなかったかもしれません。車の運転方法を知っていれば、エンジンの仕組みを知らなくても車を動かせるのと同様に、ビジネスを動かす戦略の立て方を知ってほしいために、簡明な形で書いたのが今回の『君は戦略を立てることができるか』です。
音部 大輔 氏
クー・マーケティング・カンパニー 代表取締役
P&Gでアリエールやファブリーズなどでシェア回復や市場創造の後、US本社チームでイノベーションプロジェクトを主導。帰国後、ダノンジャパン、ユニリーバ・ジャパン、日産自動車、資生堂で、マーケティング担当副社長やCMOとしてマーケティング組織構築・強化を指揮。2018年1月より現職。国内外のFMCG、輸送機器、教育、エンターテイメント、広告代理店、マーケティングサービスなどのクライアントにマーケティング組織強化やブランド構築といった“CMOシェアリング”サービスを提供。博士(経営学 神戸大学)。日本マーケティング学会 理事。日経BPマーケター・オブ・ザ・イヤー、日経BtoBデジタルマーケティングアワード審査員。著書に『なぜ「戦略」で差がつくのか。』(宣伝会議)、『マーケティングプロフェッショナルの視点』(日経BP)、連載に『音部で壁打ち』(アジェンダノート)、『音部大輔のマーケティング視点』(日経BP)などがある。最新の著書『君は戦略を立てることができるか』(宣伝会議)が2024年12月19日に発売開始予定。
クー・マーケティング・カンパニー 代表取締役
P&Gでアリエールやファブリーズなどでシェア回復や市場創造の後、US本社チームでイノベーションプロジェクトを主導。帰国後、ダノンジャパン、ユニリーバ・ジャパン、日産自動車、資生堂で、マーケティング担当副社長やCMOとしてマーケティング組織構築・強化を指揮。2018年1月より現職。国内外のFMCG、輸送機器、教育、エンターテイメント、広告代理店、マーケティングサービスなどのクライアントにマーケティング組織強化やブランド構築といった“CMOシェアリング”サービスを提供。博士(経営学 神戸大学)。日本マーケティング学会 理事。日経BPマーケター・オブ・ザ・イヤー、日経BtoBデジタルマーケティングアワード審査員。著書に『なぜ「戦略」で差がつくのか。』(宣伝会議)、『マーケティングプロフェッショナルの視点』(日経BP)、連載に『音部で壁打ち』(アジェンダノート)、『音部大輔のマーケティング視点』(日経BP)などがある。最新の著書『君は戦略を立てることができるか』(宣伝会議)が2024年12月19日に発売開始予定。
―― 戦略の考え方を押さえながら、前回より読みやすく、実践向けになったのですね。
そうですね。前回は、戦略のつくり方を汎用性ある形に定型化するところまで考察が進んでいなかった面もあったと思います。それから何冊かの著書を書き、幾度もの企業研修と戦略立案の実践を重ね、フィードバックもいただいてきたことで、このテーマに対する洗練度合いは格段に上がりました。本書には、実験を重ねることで「ほぼ外すことはない」ことが立証されてきた戦略構築のための基本ステップが盛り込まれています。
戦略構築の最も重要なポイントは、目的達成に対して資源が十分に優勢か、ということです。というのは、「選択と集中」というある意味、人間の本能に反することをして資源の濫用を防ぐためには、理性が本能に抗う必要があるからです。本書では理性で「選択と集中」を理解するためのテクニックなどを具体的にお教えします。
戦略というと「経営戦略」を思い浮かべ、米国由来のフレームワークや本を一生懸命勉強している方もいるかもしれません。実は私もそうでした。しかし、その原文はストラテジックマネジメント、つまり「戦略経営」が正しい訳語です。そのため「経営戦略」の本は、数年に一度レベルの意思決定では役立っても、日々の具体的なマーケティング戦略にはあまり活用できないかもしれません。
また、他社や過去の事例を参考にする人もいますが、事例はいわば「昨日のスポーツ紙の記事」です。読む分には面白いし、知っていて損はないけれど、それだけで野球が上手くなることはありません。過去と同じことをやるのは承認を取りやすいですが、それでは勝てる戦略を立てたことにはなりません。
戦略とは「目的達成のための資源利用の指針」です。勝つためには戦略をチームで共通して理解している必要があり、だから「指針」なのです。指針がないと、最初に出たアイデアがベストに思えてしまったり、影響力のある人の意見が吟味されずに通ってしまったりしまいがちです。戦略のリテラシーを共有していることで、チームとしての成功確率を上げることができます。
「音部大輔のマーケティング戦略講座」 公式サイトは、こちら
戦略思考は鍛えるもの
―― タイトルが印象的ですが、ここにも「戦略」が込められているのですか。
微妙な言葉の違いですが、私の感覚では「戦略を立てられるか」だと能力の話になり、「戦略を立てることができるか」だと再現性のあるノウハウを知っているか、のニュアンスになります。今回は「戦略の立て方」というノウハウを分かっているか、と問いかけることで、何となく戦略という言葉を使っていたけれど、実は本当の「戦略の立て方」を分かっていなかったと感じる方に手に取ってほしいです。
「何から考えればいいのか分からない」「上手くいったりいかなかったりするけど、何が良かったのか、何を改善すればいいか分からない」という方も、ほんの3~4時間、要点だけなら2時間で読めてしまう本ですから、出張の移動中にでも一読いただきたいですね。
―― 音部さんのマーケティング戦略講座は、本書を読んでいれば受けなくても大丈夫ですか?
受けなくて大丈夫という人もいるかもしれませんね(笑)。ただ、この戦略の話をP&G時代から数えれば数千人に講義してきた経験から言うと、思考能力とは身体技術です。精神作用と誤解されがちですが、脳の働きなので、繰り返し練習しないとできるようになりません。優れた英語の教本を読んでも、英語ができるようにならないのと同じです。インタラクティブなセッションが繰り広げられる講座は、読書とは異なる身体的トレーニングとして、マーケティングの「体幹」を鍛えるのに効果的だと思います。
先ほど、事例は「スポーツ紙の記事」にたとえましたが、最新事例や最新テクノロジーは、もちろん手段として知っていたり、使えるようになったりしておいたほうがいいです。しかし先週の「最新」は、来週は既に役に「最新」ではなくなっています。戦略構築のノウハウは20年以上適用し続けたので、明日急に使えなくなるということはありません。コンピューターが出たからといって鉛筆の形が変わることはないのと同じです。
上手くいった事例を100個読んでも、それでマーケティングが格段に上手くなった人を私は見たことがありません。だから私は事例をあまり好かないのですが、講座では布用消臭剤のケーススタディをもとに、戦略の構築と運用を追体験していただくことで、講義内容を「自分ごと化」できるよう促しています。事例が役立つのは、自分が追体験して同じ経験値を得られる時です。いわば「経験値の共有」で、個別の経験を抽象化して知識に変えるのです。
「経験値の共有」でもうひとつ、おすすめの本をご紹介しましょう。2023年に刊行した「マーケティングの扉 」(日経BP)は副題の通り、「経験を知識に変える一問一答」です。マーケティングの現場で悩むマーケターからの質問に私が答える「Agenda note」の連載「音部で『壁打ち』」を大幅に加筆し、まとめたものです。
マーケティング、キャリア、戦略、リーダー、スキルの5章に分け、「大学で学んだマーケティングの知識は社会でも役立つか」といった素朴な疑問から、「フレームワークは『視点』数よりも運用を意識」といった戦略のポイント、さらには「積年の課題、『機動戦士ガンダム』を愛する理由に挑む」というユニークなものまで、88の疑問に全力で答えています。こちらは一気読み向きの『君は戦略を立てることができるか』と違って、傍に置いて、迷いが生じた時に少しずつ開く「扉」であってほしいですね。
―― 最新刊「君は戦略を立てることができるか」や「マーケティングの扉」は、現場で日々悩むマーケターの方々にとって、戦略構築への入りやすい「扉」となりそうですね。貴重なお話をありがとうございました。
「音部大輔のマーケティング戦略講座」 公式サイトは、こちら
※記事内で紹介した書籍をリンク先で購入すると、売上の一部がAgenda noteに還元されることがあります。(編集部)
音部大輔のマーケティング戦略講座 開催概要
- 日時
- 2024年12月16日(月) 14:00-18:00(4時間)
- 会場
- 東京都内 会議室
- 受講対象者
- ・ブランドやプロジェクトの戦略を立案している方
・企業内でマーケティングの方針策定や実務を担当している方
・限られた資源で目的達成を期待されている方
・マーケティング戦略立案のベースとなる考え方やスキルを身に付けたい方
・企業に対して戦略やマーケティングプランを提案する広告会社、マーケティング支援会社の方 - 受講費用
- 5万8000円(税込6万3800円)オンライン/オフライン選択可